「3D村が面白い!」? かすれたトリックアート 西ジャワ州デポック市
「大規模社会的制限(PSBB)」の段階的緩和が始まり、街に活気が戻りつつある。屋外活動も視野に入ってきて、どこかに出かけようと計画を練った。そんな折、旧知のインドネシア人から「デポックのトリックアートが面白いらしい」との一報。村興しのために始めた事業らしく、何はさておき、カメラを担いで現地に向かった。まさかの展開になるとも知らずに……。
西ジャワ州デポック市。取材でインドネシア大学に行ったことはあるが、市街地に足を踏み入れるのは初めて。ただ、距離的には自転車で片道30キロとほどよく、中央ジャカルタから冒険気分で南進した。
南ジャカルタで道に迷ったが、基本的にボゴールに向かう首都圏専用電車(KRL、コミューター)に沿って走るルート。グーグルマップに頼ることもほとんどなく、目的地の「カンプン(集落)3D デポック」に到着した。
周辺は飲食街で、まずは腹ごしらえをと思い、「日本食」をうたう食堂で「唐揚げどんぶり」を注文。ピリ辛のサンバルをかけるインドネシア式だが、コールスローサラダもついて4万ルピア。胃袋も財布も大満足だった。
本題に戻ろう。3D村が見えてきたが、実はここで悪い予感がした。「インスタ映え狙いの人気スポット」との触れ書きだったが、人気がない。予感は的中した。「ロックダウン(都市封鎖)」。地域レベルで外来者の出入りを禁じていた。
しかし、あくまで取材だから交渉の余地はあろう。そう考えて管理担当者に直談判。事情を説明すると、マスクと手指の消毒を求められたが、あっさりゲートを通してくれた。
第一印象だが「まるで昭和の日本みたい」。村と言っても首都・ジャカルタのベッドタウンだから、住人の生活レベルは低くない。こぢんまりとした平屋建て民家が並び、軒先には洗濯物がかかる。昭和のにおいを感じるのは、道幅2メートルほどの小道のせいかも。井戸端会議を楽しむ女性たちが笑顔で迎えてくれた。
が、この日の小旅行は、ここまでだった。
カンプンの中心を貫く道にこの日の主人公、トリックアートは確かにあった。しかし、ペイントは剥げ落ちてかすれ、立ち入り規制もあるだろうが、ひとりの観光客もいない。
「トリックアートは2年前に有志のアーティストたちが描いた。スラム街がフォトジェニックな観光地に変身したカンプン・プランギ(中部ジャワ州スマラン市)に学ぼうとした。けれど、バンジル(洪水)でペイントは削られ、村には補修する予算がない」
管理事務所に戻ると、先ほどの担当者は力なく話しながらも、こう付け加えた。「コロナ収束後にきっと復活する。その時にまた来てほしい」。思うような取材はできなかったが、後味は悪くなかった。前向きな気持ちを信じ、息を吹き返す日を待とう。がんばれ、「カンプン 3D」!(長谷川周人、写真も)