ひとり夜な夜な「猫助け」 西ジャワの在留邦人 会社帰りにパトロール
6月のある夜、西ジャワ州ブカシ県チカランのシンガラジャ通り。「チチチチチ……」。電気の消えた飲食店前の暗がりで、日本人男性が舌を鳴らす。ほどなく数匹の野良猫が駆け寄ってきた。男性が道路脇に置いた、魚と米を交ぜたエサに猫たちは顔を埋め、平らげていく。男性は少しの間その様子を観察すると、他の猫の縄張りへ動いた。30分ほどで同通りでの「パトロール」を終える。1年以上も続く、この男性の日課だ。
男性は曾原篤さん(53)。単身赴任し同州カラワン県で働いている。2019年2月から、仕事が終わるとチカランのアパートまでの帰り道で、数カ所を巡り、捨てられた子猫や衰弱した猫がいないか見て回っている。「特に今は(新型コロナの影響で)飲食店が開いておらず、お腹を空かして弱っていたり、飼えなくなって捨てられた子猫が多い」のだという。
きっかけはある時、立ち寄ったワルンの脇で衰弱していたメス猫を保護したこと。栄養失調と見られ、アパートの自室で療養させた。その後改めて通りを見渡すと、同じように栄養が足りていなかったり、病気を患ったりした猫が多いことに気がついた。曾原さんは一人で、エサをやって猫たちの様子を見守り、異変がある猫がいれば病院に連れて行く活動を始めた。保護した猫は回復し次第、通りに戻している。
「食欲不振に陥っていた子猫が元気よく食べたり、走りまわる姿を目にした時ほど、元気が出る一瞬はない」。曾原さんはそう話す。一人で暮らす寂しさもないわけではない。だがそれ以上に、自身が幼少期から犬を飼っており「身近に居る動物が大切にされていない状況」を看過できない思いが強い。既に数カ月分の給料を、弱った猫を救うために費やしたという。
しかし病院に連れて行ったり、世話をしても良くならず、死んでしまった猫もいる。通りに横たわる猫の死骸を見つけ、唇を噛みしめる日もあった。「一人で活動するのは限界がある。一緒に活動してくれる人を探している」(大野航太郎、写真も)