コロナショックの中に見る笑顔 北ジャカルタ 垣間見た貧しい漁村
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事は4日、段階的な緩和に言及しながらも、「大規模社会的制限(PSBB)」の延長を決めた。しかし、コロナ問題が引き金となった経済の停滞は、庶民の暮らしを直撃している。PSBBが今後も人の流れを止め続ければ、彼らの生活は成り立つのだろうか。PSBBの施行から約2カ月。庶民がコロナ禍が続く中で見せる素顔を垣間見ようと、北ジャカルタにある貧しい漁村を取材した。
目指したのはチリンチン魚市場を取り巻く漁村。オランダ統治時代から残るコロニアル様式の建物群を抜け、タンジュンプリオク港のコンテナヤードを眺めながらさらに東進すると、その貧しい漁村はある。
車を降りて細い路地を行くと、水揚げされた魚介類をさばく人々がいた。感染予防には「三密(密閉、密集、密接)」を避けろと言うけれど、この村では人々がひしめき合って生きており、そんな余裕はない。行き交う人をみても、マスクを着用しているのは1割に満たず、伝統的なフィンガーフードも健在だった。
仲間と談笑する漁民に声をかけてみた。「漁は順調さ。だけどさっぱり売れないよ。飲食がダメだから仕方ないね。売り上げ? コロナ発生前の半分しかない……」。やはり生活は苦しい。だが、そう話す彼の横顔には悲壮感はなかった。
水揚げされた魚をさばき、天日干しなどにする女性たちの表情も明るい。仕事をしながら冗談を言い合い、隣人たちとの〝井戸端会議〟を楽しんでいる。今も昔も変わらぬ、今を楽しむインドネシア女性たちの姿がここにもあった。
干し魚などを箱詰めしている漁民たちを見かけ、のぞいてみた。伝統市場などで見かける包装ではなく、規格統一された箱にきちんと重さを量りながら、発送準備に余念がない。
「オンライン販売さ。いい品物なら、ジャカルタを離れても売れる。価格だってパサールに出すより、うまみがある。村全体ではコロナの影響もあるけど、オンライン販売なら、うまくいくさ」
2時間ほど歩いただろうか。気づくと10人近い村の子どもたちが、ぞろぞろと後を付いてくる。日本語を教えてほしいという子。壊れかけた人形を自慢する子。写真を撮られるのが恥ずかしい子。でもみんなとびっきりの笑顔を見せてくれた。
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もちろん、コロナウイルスの感染拡大という視点で見れば、低所得者層の居住エリアは劣悪な環境と言わざるを得ない。それでも、感染防止よりも重要な彼らの課題は、その日その日の糧を得ること。持ち前の明るさで、PSBB下の苦しい生活を乗り切ってきた。
その一方、PSBBがすぐ解除されれば、こうしたエリアがクラスターとなって、感染拡大の〝第2波〟を招く可能性もある。この国の指導者たちは極めて難しい舵取りを迫られていることだけは、間違いなさそうだ。(長谷川周人、高地伸幸、写真も)