コロナ対策のリーダーシップ

 先週金曜日からジャカルタ特別州で大規模社会的制限が始まった。この規制で、どこまでコロナ感染が抑えられるか。効果を祈るばかりである。
 3月2日に初の国内感染者が報告されてから約1カ月半。この間に感染死者数は300を超えた。これは東南アジア最大で、アジアでも中国に次いで多い。
 この危機に政治はどのようなリーダーシップを示すのか。他国同様、インドネシアでも期待と不信が交錯するが、中央政府に対する地方のフラストレーションは高まる一方である。
 不信の拡大に貢献するのがトップの発言だ。われわれはお祈りしているから大丈夫、と2月半ばに発言した保健大臣に危機意識は皆無だった。同大臣は退役軍人で、就任前から不適任で危険だと医師会が訴えていた。
 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の右腕、ルフット海事・投資調整大臣も、コロナは暑さに弱く4月の乾期が来れば感染力は弱まると主張した。医療関係者はあぜん。世界保健機関(WHO)も根拠なしと一蹴する。
 手洗いとマスク着用を皆が徹底すれば、1カ月で感染爆発は終わると発表した人もいる。政府のコロナ対策タスクフォース専門家チーム長だ。耳を疑う発言で不安は増した。
 こういうトップの言動が続くと、彼らが出すデータに不信感を持つ地方首長が増えても不思議でない。
 政府発表では、4月11日の段階でジャカルタ特別州の感染死者は186人だ。その数字をアニス州知事は信じていない。州ではコロナ診療ガイドラインに則って約400人の埋葬を3月に行ったと彼は訴える。
 さらにロイター通信の調べでは、3月だけで約4400人の葬儀が州内で行われた。その数は近年の月平均を飛び抜けて多く、前月の1900人増だ。この増分が実際の感染死者数であるとは言い切れないが、そう推測する人がいても不思議ではない。西ジャワ州知事も中央の数字を疑問視する一人だ。
 国家危機の今、大統領に強いリーダーシップが期待されている。彼は先月末に衛生緊急事態宣言を出し、大規模社会的制限の導入を決めた。また低所得家計に対する支援金も発表した。
 しかし、それらの実施と責任の多くを地方に投げている。各地方自治体は、自らの予算とマンバワーで大規模社会的制限の徹底を求められているが、それが可能な地方ばかりではない。できない地方はどうなるか。それは国の責任ではないというロジックが見え隠れする。
 だったら独自にできることをやる。それが地方の論理だ。アニス州知事も早急に鉄道やバスの運休を大幅に増し、都市内交通をゼロに近いレベルにしないと感染は収まらないと国に訴えてきた。しかし独自策は却下され、国の方針に従うことを余儀なくされている。mau apa yaという地方のフラストレーションが聞こえてこよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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