プラボウォを抱き込む選択
先月末に新内閣が発表された。最大のサプライズは、ジョコ・ウィドド大統領の政敵プラボウォの入閣だ。両者の狙いは何か。
「適材適所」という公式説明は極めて空虚だ。軍人時代のプラボウォを振り返ると、彼が長年指揮してきたと自慢する特殊部隊は、パプアの和平リーダーを殺害するような組織だ。同じく彼が指揮した別部隊は、多数の学生活動家を拉致し、彼も責任を問われた。ハビビ政権誕生の日には、大統領を脅して国軍司令官への昇進を迫った。最後には軍籍を剥奪された。こういう経歴のプラボウォが国防大臣だ。適材適所には程遠い。
では目論見は何か。大統領とプラボウォ双方の2024年への布石。それに他ならない。大統領は、自分を支持する多くの有権者が、プラボウォ入閣に幻滅するのを百も承知だ。それでも、支持者を失うコストより5年後を見たメリットのほうが大きいと判断した。
有権者の支持を失ったところで、5年後の選挙には出ない。幻滅する支持者の受け皿になるライバルもいない。人気の心配より、プラボウォを抱き込んで巨大与党連合を作り、国会で野党勢力を無力化する。それによって政権の事業を国会で邪魔されずに進め、自分のレガシーづくりをスピーディーに仕上げる。大統領の狙いはここにあろう。
さらにプラボウォと手を組むことで、イスラム保守勢力の封じ込めも狙っている。イスラム擁護戦線(FPI)などの反政府勢力は、プラボウォというパトロンを失い、政治力が急速に萎えている。この機に政権は様々なアメとムチで懐柔を企む。
そういう流れをつくり、5年後の任期終了まで「みんな仲良し政権」を持続する。5年後には、政権内から何人か大統領選で競い合うとしても、自分の敵にはならない。つまり引退後も安泰。これが大統領の政治目論見であろう。
一方のプラボウォも、国防大臣になるメリットを意識する。大臣となれば、外国政府との会合も増え、国際的に根強いマイナスイメージを払拭できるかもしれない。
大臣となれば、政府機関の責任者として実績ができ、5年後には政権担当能力をアピールした選挙が可能になる。
そして国防省は予算配分が最大の省だ。同時に国家機密の関係で、汚職調査が最も入りにくい省でもある。過去の大統領選挙で資金が枯渇しつつある彼にとって、このポストが「濡れ手で粟」に思えても不思議はない。
5年後に自党の選挙マシーンを再稼働させる金も必要だ。
このような、それぞれの思惑が共鳴してサプライズが起きた。しかし国民は置いてけぼりだ。そのツケは必ず来よう。=敬称略(本名純・立命館大学国際関係学部教授)