木彫りの村の今 バリ島マス村を訪ねて
古くから木彫の村として知られるバリ島ギャニャール県マス村。木彫から離れて観光業に専念する若者が増えているとはいえ、先祖代々の技術は村のあちこちで目にすることができる。マス村で新しい要素を取り入れながら伝統文化を受け継ぐ人々の現場を訪ねた。
1988年にオープンしたワヤン・パンチャさんの「ウィラガ手工芸店」はマスで最も古い店の一つ。1階には親しみやすい色合いの、どことなくあいきょうのある装飾品がところ狭しと並び、2階は神々などを模した重厚で伝統的な木彫品が置かれている。数量と種類の多さはまるで博物館のようだ。
「海外から依頼されて作った品からヒントを得て、独自にデザインしたものを含めてバリの木彫品のアイデアはすべてマスで生まれた。木彫だけで暮らしている人は減っているが、マスの男子なら誰もが持っている技術」とワヤンさんは胸を張る。
大通りから少し中に入った「アスティナ・ギャラリー」の前では、オーナーのアノム・スリアワンさんが仮面を彫っていた。数十本の自家製の彫刻刀を使い分け、2週間から1カ月かけて一つの顔を作り上げていく。店内には奉納として演じる伝統的仮面舞踊の面のほか、アノムさんが想像力を働かせて彫ったものが飾られていた。
アノムさん自身も仮面舞踊家だ。「踊り手としてその人物のキャラクターを知ってこそ面に魂を吹きこみ、心理表現を可能にするものが出来上がる」という。
「ワルンATM」は、今バリに続々と登場している竹製大型建造物の先駆者とも言われるワヤン・ムルディタさんのバリ料理店だ。それまで木彫家だった彼は、バリ在住の外国人から建材としての竹について学んだあと、独立してレストランやビラなどのプロジェクトを多数手がけてきた。作り方はワヤンさんが模型を作ってそれを職人が組み立てる。
「竹はコンクリートのように長持ちはしないが、エコ建材として注目されているし、波打った屋根など自然に調和した居心地の良さが魅力。太い竹が豊富に採れるバリならではの技術を生かしたもの」と話す。
この後、祭礼の飾り物や供物として使われる、古銭をつなげて作った像の店「バリ・コイン」、結婚式や葬儀に使われる装飾品の「アリヤ・デコラシ」に寄り、最後にホームステイ(民泊)が集中するタルカン地区に向った。主に外国人観光客を相手にしたホームステイは5年ほど前から村おこしとして進められており、多くの家庭が塀で囲まれた自宅の一角を1泊20万ルピアほどで貸している。オーナーの一人、カデック・メルタさんは「静かで安全、祭礼に参加するなどしてバリの暮らしや文化に直に触れることができる」と話している。(北井香織、写真も)
ウィラガ手工芸店 ☎0361・975679
アスティナ・ギャラリー ☎081・338・448・444
ワルンATM ☎0361・9083396
バリ・コイン ☎081・999・890・685
アリヤ・デコラシ ☎081・338・154028
カデック・メルタさん ☎081・338・771・450