大統領選挙

 ついに大統領選挙が終わった。結果をどう読むか。何がみえてくるのか。まだ集計作業中ではあるが、現段階で言えることも少なくない。
 まず、多くの世論調査が予想していた通り、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)の再選は間違いない。しかし得票率は55%程度にとどまる様子だ。5年前の選挙では53%。つまり、若干支持は増えたものの、大きな変動はないことを示している。これは何を意味するか。
 一言でいえば社会分断の固定化だ。8カ月におよぶ選挙キャンペーンの最中、ジョコウィはずっと政権の業績をアピールしてきた。世論調査でも彼の業績を高く評価する人が7割以上いた。にもかかわらず、得票率は55%。それ以上伸びない。業績と関係なく支持層が固定化していることがわかる。
 その固定化の原因が宗教である。イスラム保守主義的な人たちは、よりプラボウォ支持へ。そうでない穏健主義的な人たちはジョコウィ支持へ。選挙は、その亀裂をみごとに表面化させた。
 各地の投票からそれがよくわかる。スマトラ島とスラウェシ島の多くの州で、ジョコウィは大きく負けている。西ヌサトゥンガラ州や西ジャワ州、バンテン州も敗北だ。
 ジョコウィは5年前もこれらの地方で負けており、今回は重点的にテコ入れをしてきた。現職の強みを生かした補助金や開発事業の投下。さらには地方首長たちの支持も事前に確保してきた。
 にもかかわらずプラボウォ支持を崩せない。「ジョコウィ政権はイスラムの敵」——そう思い込むプラボウォ支持の保守主義層は熱狂的であり、硬い岩盤となった。
 逆にジョコウィ票がかなり増えたのが東ジャワと中部ジャワの2州だ。ここは元々ジョコウィの地盤だが、今回は国内最大のイスラム社会団体のナフダトゥール・ウラマ(NU)の支持も得て、露骨な反プラボウォ・キャンペーンを展開してきた。
 「プラボウォが勝ったら、解放党(HTI)やイスラム擁護戦線(FPI)といった恐ろしい急進派勢力が支配的になる。それはNUにとって大きな脅威だ」。穏健主義のNUが浸透している東ジャワと中部ジャワで、このように有権者の不安を煽(あお)った。それが大きな効果をもたらした。もしこの2州での得票の激増がなければ、ジョコウィは負けていたであろう。それだけNU動員は功を奏した。
 今回の選挙ほど社会分断が露骨に反映された大統領選挙はない。両陣営とも不安を煽る手法を駆使して戦った。ジョコウィは、この亀裂をどう修復していくのか。それができなければ、5年後にはまた同じようにイスラム保守主義を全面に掲げる大統領候補が挑戦してくるであろう。(立命館大学国際関係学部教授)

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