「守り神」ロコン山を望む 北スラウェシ州トモホン・マナド 感じた信仰の力
北スラウェシ州マナド市から約25キロ南方の高原地帯トモホン市に、毎朝スズメの声が響くエリアがある。トモホンを含むトンダノ湖周辺のミナハサ地方で、スズメ類はピソックと呼ばれ、幸運を運んでくる鳥と信じられているという。
市街地の北東の小高い丘にあるブキット・ドア(祈りの丘)からは、火山活動が活発なロコン山(標高1580メートル)を望むことができる。ロコン山は、市民から守り神として崇敬されている山だ。
ブキット・ドアには名前の通り、山の景色の中にぽつんと教会がある。案内してくれたヘンドリー・マンガラさん(46)によると、祭日や結婚式開催時には訪れる人が増加するらしい。
スズメたちはこの小高い丘から、エサを求めて湖やトモホン方面の水田に飛んで行き、夕方になると戻ってくるという。ヘンドリーさんは「ピソックもロコン山と共に村を守ってくれている」と語る。地域には、この鳥が大空をゆったりと飛ぶ姿を表現した踊りもあるのだという。
トモホン市中心部にある伝統市場には、丸焼きになった犬やコウモリ、ヘビ、ネズミが並ぶ。ミナハサ地方独特の食文化。山間部で農業を営む人々が伝統的なわなを用いて捕らえるのだという。
■街中にたたずむ寺院
トモホンから北上してマナド市に入った。マナドはミナハサ地方と同様、人口の多数をキリスト教徒が占める街で、教会が点在している。郊外のチトラ・ランドと呼ばれる住宅開発地域には高さ30メートル以上の巨大なキリスト像も建てられている。マナド市内に住むタクシー運転手のハルトノさん(66)は「ブラジルにある像の次に大きい。世界で2番目」と主張する。
市街地に戻り散策中、住宅密集地の中に中国寺院「萬興宮」を見つけた。赤を基調に明るい色でまとまった建築は多くの中国寺院とそう変わらない。中国清代の1819年建立。インドネシアで最も古い仏教寺院だという。1965年に起きた共産党系将校のクーデター未遂「9月30日事件」後に共産党員・華人への迫害が起きる中、同寺院も燃やされた歴史がある。
夕方に寺院を訪れたエカ・クスマさん(44)は月に2回程度、ここで線香をくべて、友人たちとの談笑を楽しむ。「私たちは宗教上は少数派だけど、ここに集まれば仲間と会うことができる。助け合いや団結の心は強いよ」と語る。
市街地にはヨーロッパ風の教会が建ち並び存在を主張している。早朝にはモスクから流れるアザーンも聞こえてくる。その中で、目立たないけど人々の心の支えになっている寺院もある。インドネシアの多様性を垣間見ることが、ここでも少しできたような気がする。(平野慧、写真も)