【メラプティ】 国軍のジレンマ 立命館大学国際関係学部教授・本名純

 国軍と警察の最高幹部合同会議というのが年に1度開かれ、その年の国防・治安の方針が示される。ことしは1月29日に行われた。4月の選挙を念頭に、治安の維持や、軍・警察の中立などが強調された。
 しかし、ことしは異例の発表が伴った。それは国軍の内部で「職なし将校」が150人ほど存在し、彼らにポストを与えるために他省庁への出向を可能にするという提案だ。それに向けた国軍法の改正にも言及した。これは一見、国軍内部の事情のようにみえるが、実はとても政治的で、選挙と密接に関わる問題でもある。
 なぜ職なし将校が大量発生するのか。原因は二つだ。まず1998年の民主化以降、軍人の政治関与が禁止となった。そのため、スハルト時代には全国に何千とあった軍内政治関連ポストが廃止された。他省庁への出向も禁止となった。これで将校のポストが大幅に縮小した。
 そして、軍外出向をなくす代わりに軍人の定年を58歳に引き上げた。これによって現役将校の数が年々増加していった。ポストが減って人が増えれば、当然「将校のインフレ」が起きる。その長年のしわ寄せが、いま限界にきており、苦肉の策として、他省庁への出向を復活させようというわけである。
 狙いは軍内不満の緩和だ。将校のインフレは、ポスト争奪戦を触発してきた。その競争で常に有利なのが「コネあり将校」だ。最も強力なコネが大統領の側近サークルである。そこにつながる将校は、次々とポストを得てグングン昇進していく。「コネなし」は、能力はあってもポストが回ってこない。そんな不満が充満している。
 コネありの代表が、陸軍参謀長に昇格したアンディカ大将であり、彼はメガワティ闘争民主党党首の右腕、ヘンドロプリヨノ元国家情報庁長官の娘婿である。同じくスピード昇進で大統領親衛隊長に抜てきされたマルリ少将の「ケツ持ち」も太い。彼はルフット・パンジャイタン海洋担当調整大臣の娘婿だ。また、パダン軍管区司令官に昇進したクント准将も同類で、彼はメガワティの親友、トリ・ストリスノ元副大統領の息子であり、現国防大臣リャミザルドの娘婿でもある。彼らは軍内で羨望(せんぼう)の眼差しで見られる一方、当然、ねたみ恨みの対象でもある。
 「コネなし」が「職なし」として溜まっていく状況は健全ではなく、軍内士気が低下したまま選挙に突入することは、ジョコ・ウィドド大統領陣営にとってリスクでしかない。そういう政治計算があり、選挙前に軍内不満を緩和する策を表明する必要があった。ただ、他省庁への出向という措置は、長期的には軍人のプロ意識の低下をもたらしかねない。ここに国軍のジレンマが見え隠れする。
(立命館大学国際関係学部教授、本名純)

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