【メラ・プティ】麻薬との戦いの意味 (2018年03月12日)

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 麻薬取り締まりに関する報道が急増している。先月末にはバタム島(リアウ諸島州)沖合で外国船から1・6トンの覚せい剤が押収された。先月初めにも海軍が1トンの覚せい剤を押収している。1月にはタンゲランで合成麻薬の密造拠点が摘発された。同月、大麻1・3トンの運び屋も逮捕された。昨年末にはジャカルタのディスコで合成麻薬製造が摘発された。芸能人やセレブが薬物乱用で逮捕されるニュースも絶えない。
 こういう問題は、一般的には犯罪の話として世間の関心となる。しかし、政治の季節のインドネシアでは、選挙政治の文脈で理解する必要がある。麻薬に対してどう取り組むか。ここに選挙を控えた政治リーダーたちの思惑が入り乱れている。
 国会では、麻薬法の改正案を審議している。議員の関心は、強権的な取り締まりを可能にする条項を定めることにある。「密売人」が「抵抗」した場合、その場での発砲を認める条項である。特にイスラム系政党の議員が、その条項を強力にプッシュする。なぜか。来年の選挙をにらんで、「麻薬との戦い」を積極推進するのはイスラム系政党だということを有権者に示したいからである。麻薬は悪であり、悪と戦う「道徳」の政党、それがイスラム系政党。信者の皆さんぜひ支持を。大体こんなアピールである。
 ジャカルタ特別州知事も麻薬対策で強権的な取り締まりを訴える。州内36のディスコが麻薬の温床になっているとし、「若者を麻薬から守る」というスローガンで、ディスコの摘発を進めている。これも世論の支持、とりわけイスラム層の広い支持を確保し、「モラルの人」アニス知事というイメージの形成に大きく貢献する。先の州知事選で、イスラム急進派勢力の支持に頼ったアニスは、イメージ回復の機会を麻薬との戦いに見い出す。
 ジョコウィ大統領も、「躊躇(ちゅうちょ)せず発砲せよ」と激励する。これもまた、「強い大統領」のイメージ形成に大いに役立っている。2014年の大統領選挙では、「庶民派」リーダーとしてソフトなイメージが彼の売りだった。対するプラボウォ氏は、強いリーダー像を掲げた。来年の選挙を控え、プラボウォ対策には、自分が強いリーダーを演じることが一番だと考えていると思われる。うまくいけば最近離れつつあるイスラム層の支持もついてくる。
 こういう政治の思惑が「麻薬との戦い」の裏に見え隠れする。その「戦争キャンペーン」の犠牲となるのが、問答無用で逮捕され刑務所送りになる大量の「麻薬使用者」たちである。リハビリなどの公共衛生対策が後回しになっているため、薬物依存の犠牲者たちがジャンキー扱いされ、「罪人化」され、刑務所は許容オーバーでカオス状態だ。刑務所内で麻薬売買がはびこり、受刑者による注射針の使い回しでエイズウイルス(HIV)感染が拡大している。世界中の経験から、強権的な麻薬対策は、あまり効果的でないことが示されている。にもかかわらず、強い姿勢を示したい政治エリートの思惑があり、「戦争」がアピールされる。政治の季節は残酷な季節でもある。(立命館大学国際関係学部教授)

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