沈む学校 沈む故郷 2週間後に児童ゼロ

 ジャティグデ・ダムに沈む村の一つ、チパク村に住むナタさん(46)は妻と母親との3人暮らし。8.8ヘクタールの水田を持ち、1年に2回の収穫で7トンのコメを収穫してきた。「俺も俺の先祖もここで生まれ、ずっとコメを作ってきた。これからもそれしかできない。土地が沈んだらどうしろというんだ」と声を荒げる。村の9割は農民で収入は多くが月300万ルピアほど。水田がない土地で生きていくのは難しい。
 集団移転はなく、村社会のつながりもなくなる。村の国立サダン小学校には2週間前には99人の児童がいたが、徐々に引っ越し、19日には69人になった。2週間後にはゼロになる。朝の薄暗い教室には子どもの笑い声が響く。教師のルトフィ・ヒダヤットさん(39)は「われわれも別れるのが辛い。学校の教師10人は新しい就職先を探しながらだが、最後の一人の生徒まで見送る覚悟だ」と心境を語る。 
 同村にある歴史的な遺産も水底に沈む。7世紀ごろスメダンに栄えたスメダンララン王国のアジ・プティ王の墓がある。スンダ人の英雄とされており、参拝客が絶えない。参拝に訪れていたリア・ロロさん(48)は「英雄で、歴史的にも重要なのに……」と言葉を詰まらせる。
 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は8月31日に行われた貯水開始の式典には出席しなかった。住民が直談判する機会は失われた。来週には沈む28村にある約40の小中学校の児童・生徒が書いた大統領への手紙600通を届け、村民の苦境を訴える。村で生まれ育ったオチェさん(42)は「とにかく大統領はここに来て、われわれと会い、話すべきだ」と強い口調で語った。(堀之内健史、写真も)

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