強いルピア

 8月に入ってからの急速なルピア高は多くの人の予想を上回るものだったと言えよう。7月下旬に1万6300台で推移していた対ドルのルピア・レートは、8月下旬にかけて一時1万5300割れの水準まで上昇した。
 今回のこの動きは主にはドル側の要因、つまり長らく待たれた米国における金融政策転換のタイミングがようやく見えてきて、ドル金利の低下トレンドが誰の眼から見ても明らかとなったことが大きい。2022年にはじまった米国の金融引き締め局面でドルに吸収されていた世界中の資金が、ここへ来て一気にドル以外の通貨に逆流しはじめた動きと捉えることもできる。
 インドネシアへの資金環流もかなりの規模に上っている。8月の海外からの債券市場への資金流入は約24億ドル、株式市場には約18億ドルと、単月の資金流入額としては、(8月末日のデータが揃いきっていないものの)過去最高水準となった可能性が高い。
 ただ非ドル通貨への資金環流ペースは、通貨によってまだら模様だ。アジア各国通貨の8月中の対ドル上昇率を見ると、マレーシア・リンギット(6・3%)、インドネシア・ルピア(5・2%)が強い動きを見せたが、インド・ルピー(マイナス0・2%)、中国元(1・9%)、シンガポール・ドル(2・2%)など目立った動きが見られない通貨も少なくない。中南米、東欧通貨も概ね反応は薄い。各通貨への資金環流の動きは、日銀による政策変更で一足先に7月から大きく買われた円は別としても、足下の各国政治・経済ファンダメンタルズにより差がついてきている側面が強いのではと考えられる。
 インドネシアは、足下でスムーズな政権移行が見込まれており、また8月中旬に発表された国家予算案も財政拡張への懸念を払拭するような規模感に収まっていたことがかなり好感されているようだ。株式アナリストの中にはインドネシア株を買い推奨に引き上げる動きもあり、海外投資家の間でインドネシアに対する良好なモメンタムが醸成されてきていると言える。
 この流れ、今後も続くだろうか。ひとつ懸念材料があるとすれば、ドル側の要因、つまり米連邦準備理事会(FRB)の利下げペースについて、市場参加者がやや前のめり気味にポジションを張っている可能性があることだ。金利先物市場では、ドルの政策金利について年内あと3回の政策決定会合で合計1%の利下げを織り込んでいる(そのうち少なくとも1回は0・50%の利下げ)が、これはこれまでFRB理事が示してきた予想値を大きく上回る。既に米国のインフレ鈍化傾向が鮮明となっている中、利下げペースのカギを握るのは労働市場の状況だが、これから先、相応に底堅い雇用統計が出てきた場合には、利下げ期待の剥落とドル反発を招くであろう。その意味で、まずは今月6日に発表される8月の米雇用統計は注目される。
 先週、インドネシア中銀は来年のルピア為替レート見通しを1万5300〜1万5700のレンジと発表した。足下の市場動向に照らし合わせるとやや保守的(ルピア安方向)な水準といえるが、一方で「依然警戒は必要」(8月21日の政策決定会合後のインドネシア中銀声明)との現状認識は十分理解し得る。
 しばらくはドルの利下げペースに翻弄される状況が続くと考えられるが、その過程では各国ごとの状況に応じたそれぞれ通貨への資金環流パターンが見えてくるはずで、その部分にも注目していきたい。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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