ダナンタラ

 先週24日、インドネシア版ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)、ダナンタラ・インドネシアの設立式典が行われた。式典自体はほぼ大統領のスピーチのみであったが、ユドヨノ氏、ジョコウィ氏を含む歴代大統領・副大統領のほか多数の要人が招かれ、この試みが幅広い支援を取り付けていることを印象付ける意図とともに、重要国家プロジェクトとしての意気込みを感じさせるものであった。
 ダナンタラは大手国営企業7社の株式持分を移管することで設立、当初資産規模は200億ドル程度(約3兆円)だが、将来的には9000億ドル(135兆円)規模を目指すとされる。世界規模のSWFでは、ノルウェー政府年金基金(資産規模1・8兆ドル)が規模で突出するが、これに次ぐ規模のアブダビ投資庁(ADIA)の資産は約1兆ドル。ダナンタラはこの規模を目指すということになる。
 ダナンタラの資産には今後大手7社以外の国営企業の持分も移管される計画のようだが、少なくとも企業価値としてはこの7社が国営企業全体の中でもかなりの部分を占めていると考えられる。従って、今後の資産規模の拡大を目指すには、もっぱら運用リターンの向上が必要ということになろう。
 他国のSWFを見ると、資産運用の方針には様々なパターンがある。グローバルに上場株式・債券中心にバランスの取れたポートフォリオを組むケース(ノルウェー政府年金基金など)、非上場の代替資産も含めて大きめの投資機会をアクティブに狙っていくプライベート・エクイティ型(シンガポールのテマセックなど)が主な類型だろう。いずれも国富増大のために運用リターンの安定的な極大化を主な目的とする。シンガポールではテマセックとGICという2つのSWFで、財政支出の2割前後の運用配当をたたき出している。中東では資源収入を原資としたSWFが多いが、もともと上場株式中心の資産ポートフォリオから、近年では国益にかなう国内プロジェクトへの投資比率を高めるケースも見受けられる。
 ダナンタラの運用方針はまだ詳細が見えてきていないが、主には資源下流化や再生可能エネルギー、食糧・水産分野などにおける戦略的な国家プロジェクトへの投資を想定すると言われており、どちらかというと国益寄りの運用方針との印象だ。ダナンタラに対してはガバナンスの不透明性を指摘する声も上がるが、これはマレーシアの1MDBをはじめ過去のSWFの失敗ケースがそれぞれの国内開発案件への投資を手掛ける中で起こっていることとも繋がっているであろう。
 ただ一方で、まずはこのファンドのそもそもの役割や目的を明確にすること(つまり国富の増大のためか、戦略的な開発案件への資金供給のためか)がないと、適切なガバナンス体制もつくり得ないのではないだろうか。複数の目的や役割を混在させることは、幅広い支持を取り付けることには役立つかもしれないが、資産運用の意思決定のレベルでは混乱や恣意性の余地が広がってしまうおそれもある。
 現状、国営企業からの国家財政への利益還流は、年間約90兆ルピアと非税収歳入の2割近くを占めるが、今後はこのうちの太宗部分がダナンタラの収入に切り替わることになる。今後、このファンドがどのように運営されていくかは、マーケットへの影響含めてこの国の財政や経済を判断するうえでのひとつのファクターにもなってくるのではと感じている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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