「変化を先取りし、インドネシアに貢献し続ける」
世界第4位の2億7000万人を超える事項を擁し、年率平均5パーセント前後の経済成長を続けるインドネシアでは、再生可能エネルギーへのシフトと安定的な電力供給が国家的な課題となっています。インドネシアが有する豊富な地熱資源を利用した地熱発電は、この2つの課題を同時に解決する有効な手段として認識されており、同国政府は、現在の約2・6ギガワットの地熱発電容量を、2030年までに約7・6ギガワットに増やす計画を立てています。
地熱発電は再生可能エネルギーを利用した発電方法の一つであり、基本的な仕組みは、火山の地下などにあるマグマの熱によって温められた地下水の蒸気でタービンを回し、発電を行うというシンプルなものです。しかも、発電し終わった蒸気は、地下に戻され、再度マグマの熱で温められ循環して利用されます。化石燃料を必要としないため環境負荷が低く、燃料市況に電力価格が左右されないこと、太陽光や風力発電など気象の影響を受けやすい他の発電方法と比べて、安定した電力を得られることが大きな特徴です。
一方で、地熱発電は地中深く井戸の採掘を進めなければ、発電に利用できる十分な蒸気が得られるかどうか分からないというリスクを伴っています。実際2000~3000メートルの井戸を掘り進めたのちに、十分な蒸気が得られないことが分かり、発電プロジェクトが頓挫してしまうこともあります。地表からの調査ノウハウ、掘削開発のための資金と時間、更には多少の運を必要とするのが地熱発電事業です。
住友商事は、目指すべく企業像として、常に変化を先取りして新たな価値を創造し、広く社会に貢献するグローバルな企業グループを目指すことを掲げています。この考え方に基づき、ここインドネシア市場において、弊社がどのように地熱事業を行ってきたか、ご紹介させて頂きたいと思います。
弊社は、将来の電源多様化を見据え、地熱発電設備が大型化・実用化された黎明期から、地熱大国インドネシア市場の将来性に着目しました。
1995年に地熱発電への取り組みを開始し、97年に初の地熱発電所建設案件を受注、本日まで計17ユニットの納入に関わってきました。これは、同国における地熱総発電容量の約38パーセントを占め、インドネシアではトップの実績を誇ります。
こうした地熱発電所建設の実績を活かして、更なるインドネシアへの貢献を高める為、地熱IPP事業への参画を2011年に決断しました。IPP事業とは、事業者が発電施設のオーナーとなり、継続的に発電所を運転し売電を行うというビジネスモデルです。
第1号案件として挑戦したのが、スマトラ島西部のムアララボ地熱発電事業です。地熱発電所の建設は、手つかずの山地を切り拓くところから開発は始まりました。とりわけ、ムアララボは、最も近い空港から陸路で5時間超を要する極めてアクセスの悪い場所です。更に、インドネシアにおいて日本企業が試掘前の最も初期の段階から海外地熱鉱区を開発した前例はなかったので、インドネシア国内の制度が未整備な中で、契約交渉には大変な苦労を重ねました。
そのような中、「当社にとってインドネシア発の地熱IPPプロジェクトを期限通りに完工して、インドネシアの再エネ電力供給に貢献する」という高い目標を掲げ、19年12月無事商業運転を開始することができました。
一方で、地熱発電事業には、他の再生可能エネルギーにはない、特有のリスクが存在します。弊社はこれまでに蓄積してきた知見・ノウハウをもとに、関係する全てのステークホルダーと連携し、リスクをマネージしながらインドネシアの低炭素化の実現に更なる地熱発電事業を通じて寄与していきます。(インドネシア住友商事社長 米津暢康 JJC広報文化部会長)