米経済変調の兆し
これまで堅調さを維持してきた米国経済に変調の兆しが現れてきた。米国の経済統計はそのカバーする範囲や詳細さにおいて群を抜いており、その分経済全体がどんな状態にあるのかを理解する上での解像度が高い。経済統計には、実際の経済活動の集積結果であるハードデータと、アンケート調査等により各経済主体のセンチメントを測るソフトデータがあるが、足下の変調は、主に消費関連のソフトデータに顕著に現れてきている。
2月中旬に出た2つの主要な消費センチメント指標(ミシガン大学消費者マインド指数とコンファレンスボード消費者信頼感指数)は、ともに市場予想を大幅に下回り、コロナ期以来の悪化を示した。それぞれの指数は高額商品の購入意向や雇用の見通しなどを年齢層や所得階層別に示しているが、かなり多くのカテゴリーで明確にセンチメントの悪化が見られる。
この足下の動向にトランプ政権の政策がどの程度影響しているかは定かではないが、少なくとも時系列的には、政権発足から1ヶ月程度を経たあたりからメキシコ、カナダ、中国への関税引き上げとその報復関税が現実化、消費センチメントの悪化もほぼこれと同じタイミングで起こったことを考えると、トランプ関税が景気変調の引き金を引いている可能性は大いに考えられる。
金融マーケットもこの消費センチメント指標に反応しており、ここ数週間で米株安、ドル安、長期金利低下という景気悪化時の流れが出来上がった。一方で連邦準備理事会(FRB)はまだスタンスを変えていない。先週7日の会見でFRBパウエル議長は、前日に出た雇用統計の結果を踏まえ景気はまだ堅調で、インフレ再燃リスクはまだ残っているとの見方を示した。
向こう1〜2ヶ月の間に出てくるハードデータが、先行するセンチメント指標を追認する内容なのか、それとも違う動きとなるのかは、今後の米国の景気動向を予測する上でも重要なポイントとなろう。
ドル金利への影響はどうなるであろうか。米国景気の悪化が進むとなると、ドルの政策金利引き下げが加速していくと見るのが自然だ(これはルピア金利の引き下げ余地という意味でもポジティブに働く)。ただ、一連の景気変調の流れが、トランプ関税が主要因で起こっているとすると、米国景気が悪化してもインフレ懸念が(高関税による輸入製品の価格上昇により)継続してしまうという悪いシナリオも考えられる。この場合ドル政策金利の引き下げは緩やかなものとなろう。
インドネシア・ルピアの対ドル為替はこの2週間のうちに2%を超える下落と上昇を経験した。下落は株安も伴っており、財政支出削減策やダナンタラなど国内要因によるルピア売りの動きも一定程度あったと考えられる。為替の安定は今後のルピア金利引き下げ判断にも影響してくる。インドネシア中銀としては、ドル政策金利が下がりそうなタイミングでは、国内要因に振り回されることなくタイムリーな利下げを進めていきたいところだ。
今月19日には米国FRB、インドネシア中銀共に政策金利決定のタイミングを迎えるが、両中銀の現状認識を確認する上でも注目したい。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)