プラボウォとジョコウィ

 先月の大統領選挙から約1カ月が経ち、政界は次期プラボウォ政権がどういう閣僚ラインナップで船出するのか、様々なゴシップが飛び交っている。しかし、10月の政権交代まで7カ月あり、現段階で名前が挙がるのは、大体その芽を潰すことが目的だったりする。
 むしろ、これから10月までの政治の本質は、次期大統領プラボウォと現大統領ジョコウィ、そして次期国会で第1党となる闘争民主党のメガワティ党首が繰り広げる権力闘争だ。
 プラボウォは、ジョコウィに大きな恩を感じている。選挙で58%の得票率というのは想定を上回る数字であり、この地滑り的勝利は、ジョコウィの強力なてこ入れで可能になった。プラボウォは自分を助けてくれた人を大事にすることで知られる。彼は「恩人ジョコウィ」を尊重し、ご意見番として引退後のポストを準備するであろう。
 しかし、その「恩人」が自分に干渉しようとするのなら、話は別だ。その疑念が、プラボウォの周辺で強まりつつある。なぜか。
 プラボウォが58%の得票率を叩き出したとき、彼が率いるグリンドラ党も歓喜の声を上げた。いわゆるコートテール効果で、議会選挙でも躍進し、国会第一党にのし上がることを期待したからである。
 しかし、そのセオリーは見事に外れた。第1党どころか、前回選挙の11%と大差のない13%の得票率で、従来と同じく国会第3党となることが予想されている。なぜグリンドラ党の票は伸びなかったのか。彼らの疑念はジョコウィに向けられている。
 選挙戦の終盤、ジョコウィはジャワ島各地の村々で生活支援物資のバラマキを自らの手で行った。この支援は、プラボウォ政権になったら継続されるというメッセージ付きだった。しかし興味深いことに、ジョコウィはバラマキの現場にゴルカル党のアイルランガ党首を連れて行くことが多かった。アイルランガは経済調整相なので、同行は不自然ではないものの、大衆にはゴルカル党が生活支援の先頭に立っているという印象を効果的に植え付けた。これがゴルカル党の集票能力を高め、グリンドラ党の票を削る結果を招いた。
 ゴルカル党は15%の得票率で国会第2党になることが予想される。ジョコウィは、その意図を持ってアイルランガを選挙戦に同行させたと思われる。アイルランガにとって、ジョコウィはゴルカル党の国会議席を増やし、党首の座を守ってくれた「恩人」となった。
 次期国会にて、ゴルカル党がグリンドラ党より議席が多いということは、プラボウォ政権の与党連合の中の力関係も変わってくる。次期政権の与党第1党はグリンドラ党ではなくゴルカル党となり、それを背後でコントロールしようとしているのがジョコウィだという構図が見えてくる。
 グリンドラ党には、こういう動きをするジョコウィに対して警戒心が強まっている。プラボウォ自身も、ジョコウィの意図に薄々疑問を感じても不思議はない。「恩人」として敬うか、「干渉者」として遠ざけるか、これからの判断になろう。
 もし「干渉者」だと理解すれば、プラボウォはメガワティと闘争民主党に与党連合への参加を懇望し、ゴルカル党とジョコウィの影響力を相対化しようと試みるだろう。3者の三角関係の行方が見ものである。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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