現実化する物価高
インドネシアでも、徐々に消費者物価の上昇傾向が鮮明になってきた。先日発表されたインドネシアの3月の消費者物価指数は、前年同月比で2・64%、前月比で0・66%上昇した。コロナ禍のなかで2020年6月から21年12月までは、ずっと2%を下回る水準で推移していたが、ここにきて上昇ピッチが早くなっており、他国と同様に徐々に警戒すべき水域に入りつつある。
インフレ自体は、消費の需要が強いことを意味し、全体の経済活動が戻りつつある中では良い傾向とも考えられるが、一方でご存知の通り、今回のインフレはエネルギー価格や食料品など供給サイドの事情による要因が大きい。需要要因でのインフレの場合は、金利引き上げによる引き締め効果を期待できるが、供給要因の場合は、今後のインドネシアで予想される利上げがどこまで効くのか、政府や中銀はインフレ・コントロールに苦戦する可能性がある。
具体的に足元のインドネシアの物価状況を見てみたい。まずはガソリン価格。政府の補助金の入っている「プルタライト」は、価格を1リットルあたり7650ルピアに抑えられてきた。一方、政府からの補助金なしの「プルタマックス」についても、長らくプルタミナ社は価格を同9000ルピアに抑えてきたが、今月から12500ルピアへと値上げを余儀なくされた。ただ、これでも同じオクタン価の他社製品(同16000ルピア前後)に比べると、まだまだ低く抑えられており、今後の原油価格の動向次第では、更なる価格上昇リスクがあるとみられている。
食用油も似たような状況だ。同じく政府による補助金で価格は低めに抑えられてきたが、3月にこの枠組みが外れ、現在では7割近くも価格が上がってしまった。この分は、4月のインフレ率の数字で効いてくると予想されている。加えて、付加価値税(VAT)の11%への引き上げも今月から始まっており、これも転嫁状況次第では消費者の負担を増やすことになる。
こうした状況を受けて、国民の不満はふつふつと溜まりはじめており、急きょ、月収350万ルピア以下の低所得者層向けに、政府が臨時の現金給付を行うことが発表された。資源価格の上昇が続いていることで、これを賄う財源を政府が手当てできる点は、朗報であるものの、この先、現金給付を何度も行えるわけではない。
3月の物価水準は、中銀のターゲットとする物価水準(2%〜4%)の下方にまだ収まっているが、上記の通り、今後にかけてはインフレの不安材料が増えてきている。特に、政府の赤字財政状況との兼ね合いで、これまで価格を低く抑えて来た政府補助金の継続が難しくなる場合は、インフレ率上昇のスピードは早くなる可能性が高い。
他国を見ると、いち早くインフレが鮮明化したスリランカでは、電力・食料品不足が深刻化してインフレ率は過去2カ月で17%を超えてしまい、大統領の辞任を求める大掛かりなデモに発展した。政府は、非常事態宣言・外出禁止令を出し、インフレ抑制のために政策金利を6・5%から一気に13・5%まで引き上げざるを得なくなっている。
インドネシアは、資源国だけに現時点での状況は大きく異なるが、年後半にかけてはこうしたリスクが高まっていく点には、留意したい。(三菱UFJ銀行 江島大輔)