円安とルピアの安定
円安の流れが止まらない。ドル円は、年初の115円前後のレベルから、先週はついに6年半ぶりとなる125円台をつけた。マーケットでこの125円は、「黒田シーリング」とされている。これは、黒田日銀総裁が2015年に「実質実効相場から見ればかなりの円安」と、めずらしく円安牽制ともとれる発言をした際の水準が125円であり、ここを超える円安に日銀がどう対応していくのか、にわかに注目されている。
円安の第一の要因は、ご承知の通り、米国の利上げが始まったためである。3月中旬の利上げ後も、FRB(連邦準備理事会)のパウエル議長は、「必要に応じて次回会合(5月)で、金利を0・5%引き上げる用意がある」と発言しており、米国の利上げペース上昇が織り込まれたことで、ドル高の流れになっている。一方で、黒田日銀総裁は、「商品市況主導の物価高は続かず、金融緩和を継続し経済を下支えする」と強調しており、日本の金利は当面動きそうにないということで、急なドル高円安に繋がった。
ただ、対ドルでの円安は上記で説明できるが、円は対インドネシア・ルピアでも安くなっている。円ルピアの相場をみると、年始は125ルピア/円のレベルにあったが、直近の相場は117ルピア/円と、約6%の円安になっている。インドネシアも日本と同じく、金利については当面は注視しつつも据え置きというスタンスで、金利政策に大きな違いは無い。にもかかわらず、この為替の差が出ているのには、資源国VS非資源国、という側面がありそうだ。
実際、他国の昨年末と比較した足元の為替水準(対ドル)をみると、利上げのあったブラジルが+17%、南アフリカ+10%、チリ+9%、豪州+3%など、総じて資源国の為替が強い。一方、通貨安となっている国は、日本(マイナス6%)、台湾(同4%)、英国(同3%)など、非資源国・地域が多い。インドネシア・ルピアは、マイナス0・8%と、ほぼ横ばいで踏みとどまっている。もちろん、ロシア(マイナス14%)など、資源国でも下がっている通貨もあるのだが、総じて非資源国の通貨が売られている。これが2番目の円安の理由になる。
足元のインフレ局面で、日本のように資源を輸入に頼る国は、どうしても貿易赤字から経常収支が悪化しがちになる。データを見ると、3月上旬に財務省が発表した1月の経常収支は2カ月連続の赤字となり、赤字幅は約1兆2千億円に膨らんだ。資源価格高騰により輸入が前年同月比で約40%増えた一方、輸出の伸びは15%程度にとどまったことで貿易赤字が前年同月の10倍超に拡大し、海外配当金などによる所得収支を完全に上回ってしまった。日本の経常収支は比較可能な1996年以降、年間ベースで赤字になった例はなかったが、22年は、ついに赤字転落が視界に入ってきている。
一方、資源国のインドネシアは、輸出増に牽引されて貿易黒字が拡大しており、21年は10年ぶりに経常黒字化した。インフレ傾向がしばらく続きそうな中で、資源高のもたらす貿易黒字・経常収支改善といった状況が、ルピア安定の主因となっており、弱含む円との違いにもなっている。
こうしてみると、円安・ルピア安定という、現地生活実感からするとやや居心地の悪い状況も、この先の資源高を主因としたインフレの間は、暫く続きそうだ。日本の強みだった貿易黒字力が落ち、インドネシアのそれが力を増している。短期間で、随分と様変わりしてしまった。(三菱UFJ銀行 江島 大輔)