第3波への政治的備え
年末年始の休暇を経て、ジャカルタでも新型コロナウイルスの新規感染者が急増している。とくに先週の後半は、連日200人超えを記録した。新規感染者の大多数が、海外からの帰国者だ。オミクロン株の流行による第3波の到来を念頭に入れ、今年もコロナ対策が政治の重要課題になることは明らかであろう。
オミクロン対応の要は、水際措置の強化とワクチンのブースター接種だとされている。その両方で、いま社会の不満が強まっており、連動して政治不信も高まりつつある。
例えば隔離政策だ。まじめな帰国者は、ルールに従って隔離期間を待機施設で過ごす。しかし、特権階級はそれをしないという実態が多く報告されている。
外遊帰りの国会議員御一行が、隔離をスルーして自宅に戻っていた。旅行帰りのセレブが、空港の空軍スタッフに4千万ルピアの賄賂を渡して裏口入国し、帰宅していた。さらには、隔離ホテルのマネージャーを抱き込んで架空宿泊を企てるケースや、「3イン1時代」のジャカルタで重宝されたジョッキーのごとく、〝分身〟を隔離ホテルに宿泊させ、自分は帰宅するという技もある。
一般市民に厳しく、権力や財を持つエリートに緩い。そういう隔離政策の実態が徐々に明らかになっている。それらが報道されるにつれ、国民のコロナ対策不信も高まっていく。
ワクチンに関しても同じだ。政府は、2回目接種率が住民の6割を超えている自治体に限ってブースター用のワクチンを配布するとしている。これだと、ジャカルタなど接種率の高い地域には配られるが、そうでない地域は置き去りになる。それは不公平極まりないという不満が地方から湧き出ている。
実際、全国514県・市のうち、その基準を満たしているのは半分以下の244県・市だ。そういう不公平感から、疫学の専門家たちも、全国の2回目接種率が7割を超えるまで、ブースター接種は延期すべきだと主張してきた。
しかし政府は、方針を転換する姿勢を見せていない。その結果、ブースター接種が遅れそうな地方で、ワクチンを打ちたいがあまり「闇ブースター」に手を出すケースさえ出ている。
ワクチンの運搬は、各地の軍と役所が管理していることから、こういう違法医療行為にワクチンを横流しする不良軍人や役人がいることは明白であろう。
これらの政策不信の数々を緩和するには、地方リーダーの活躍が欠かせない。各地で州知事、県知事、市長が、住民との対話を通じて不信を解消していく。そのリーダーシップが今求められている。
だが、今年、ジャカルタ特別州を含めて6つの州と114の県・市で首長任期が終了する。後任の住民選挙はなく、すべて内務省の任命となる。つまり、地元住民よりも中央政府を向いた首長が、各地に投入されそうだ。そうなれば、リーダー不信と政策不信が相乗して、市民の政治的不満も一気に高まる。
そのスパイラルに陥らないためにも、まずは透明で公正なオミクロン対策を軸に、第3波対策が前進していくことを期待したい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)