潜水艦事故と国軍改革

 先月下旬、海軍の潜水艦「ナンガラ402」がバリ島沖で沈没し、53人の兵士が全員帰らぬ人となった。この事故は、外国の捜索協力もあり、国際的な注目にもなっている。この悲劇の裏に見え隠れする国軍の問題に迫ってみたい。
 事故前から、ナンガラの艦長は周囲に事故への不安を漏らしていた。でも上官には相談できなかったという。相談が上層部批判と解釈され、左遷させられるのを恐れたからだ。
 現場の兵士たちの中心的な懸念は、潜水艦の整備である。海軍が保有する5隻の潜水艦のうち、2隻がドイツ製の中古で、40年も使用してきた。沈んだナンガラはその1隻だ。
 ドイツ製に加えて韓国製2隻、そして韓国と共同生産した1隻を保有する。しかし、1番艦となる韓国製で4年前から使用している「ナガパサ403」の現場での評判は悪い。残ったドイツ製も老朽化が激しい。したがって、現在ある4隻のうち、安心できるのは2隻のみ。海洋防衛に12隻の運用が理想とされるなか、2隻しか実用的でないという厳しい現実に直面している。
 その環境で、整備に不安を抱えたまま運用するため事故が起きる。それは潜水艦に限らない。過去5年だけ見ても18件の事故が起きている。軍艦の事故が6件で最大だが、空軍機事故も5件、陸軍ヘリの事故も5件ある。どれも整備不良が指摘されてきた。その原因にもなっているのが、中古品の輸入である。
 中古の艦艇や戦闘機などの防衛装備品を輸入してきた理由とされるのが予算の問題で、国防予算の規模は年々大きくなっているものの、陸海空の3軍と国軍司令部、そして国防省で全体予算を5分割するため、海と空への配分は大きく限定される。そのため中古しか買えない。従来そう説明されてきた。
 しかし、中古装備品は新品と違い、価格が操作されやすい。ここにブローカーが暗躍し、中間マージンが抜かれ、国防エリートに金が還流する汚職の仕組みがあり、それが公然の秘密となっている。その結果、価格に対してアンダースペックな装備品が多く集まり、それを使う現場の兵士に事故リスクが集中する。これこそが、近年の国軍事故の問題の本質であろう
 今回の沈没事故を教訓として、装備品調達システムの早急な改革に取り組むことが期待されている。これまで国防機密の名の下で、外部の独立監査機関のチェックは入りにくく、汚職撲滅委員会も介入に消極的だった。ブローカーの排除や透明性の向上が改革のカギとなろう。
 予算改革も必要だ。国防の近代化と高度化こそに予算のプライオリティが置かれるべきだろう。プラボウォ国防大臣の下で同省が注力する中カリマンタン州の泥炭地の大規模農園開発や、素人の予備兵を35大隊規模で組織化するなどの企画は、もっとも低い優先順位になるはずだ。
 53人の死を無駄にしないためにも、国軍の近代化と高度化を最優先する国防予算の配分に取り組み、装備品の管理能力を高めて、事故リスクを最小化させる方向に改革を進めてほしいと切に思う。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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