脱ジェンダー化するテロ
先月末の2つのテロ事件は、インドネシアにおけるテロ動向の変化を象徴したものだった。ひとことで言えば、女性の役割の変化である。
マカッサルの事件では圧力鍋爆弾を抱えて自爆した。ジャカルタではエアガンで警官に危害を加えようとした。手法は違うが、主体的にテロ攻撃を行う女性がクローズアップされた。
ジュマ・イスラミア(JI)が注目された2000年代のテロ実行犯は、男性ばかりだった。女性は準備を手伝うとか、事件後に残された家族を守るなどの「一歩下がった」役割が期待された。
それを変えたのがシリアでのイスラミック・ステート(IS)の台頭と、ソーシャルメディアを使った過激思想の流布だ。2014年に誕生したISは、男性にも女性にも積極的なジハード(聖戦)の実践をソーシャルメディアで呼びかけてきた。
従来、インドネシアでは、対面の宗教勉強会やボランティア集会を催してメンバーのリクルート活動に励み、参加者も男性に偏りがちだった。それがソーシャルメディア時代に入り、非対面のオンラインで男女平等に過激思想が広がる基盤ができた。
その変化を反映し、16年12月には大統領宮殿付近で女性の自爆テロ未遂があり、その後も18年のスラバヤでの自爆テロ、19年のフィリピン・スルー州での自爆テロ、そして今回のマカッサルとジャカルタでの事件へと発展している。
その傾向は今後も変わらないと思われる。まず洗脳のオンライン化は、コロナ禍で高い効果を発揮している。ステイホームや行動規制でネット依存が増し、過激思想に触れる若者は増える一方だ。
また18年のテロ法改正により、国がテロ組織と認定したグループであれば、犯行前でもメンバーを逮捕できるようになった。それによって、法改定から今日までの逮捕者は千人を超えている。その状況で、過激派集団も一斉検挙を恐れて対面集会を避けるようになり、リクルートのオンライン化が加速している。
こういう展開は、ジェンダー平等的に新規のテロシンパを増やし、今後も女性のジハディストが前面に出てくることを示唆している。果たして、従来の対策で、こういうトレンドに効果的に対応できるのだろうか。
国家警察は1月からの3カ月で、94人をテロ容疑で逮捕してきた。かなり急ピッチに成果を挙げている。焦るテロ組織の中で、逮捕や死亡した仲間の復讐や、後追い目的で自爆テロの決行を急ぐ傾向があるという。
それを考えると、女性テロ、そして我が子さえ巻き込んだ家族テロが主流化していく事態を想定したテロ対策の再構築が期待されよう。とりわけ、従来のような、宗教団体の協力を重視して進められてきたテロ対策では現状に追いつかない。女性や子どもの団体、そしてソーシャルメディア業界との協力を深めて、より多角的なアプローチを模索することが重要になる。
そういうモデルはアジアには皆無であり、インドネシアが先駆けて作って発信していくことが、国際的なテロ対策にとっても大きな貢献となろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)