FPI捌きの政治
ついにリジック氏が勾留された。イスラム擁護戦線(FPI)のリーダーである彼は、土曜日に警察の事情聴取要請に応じて出頭したが、逃亡の恐れありと判断され、そのまま身柄拘束となった。彼の容疑は、新型コロナウイルス対策規則に違反して、集会を扇動したなどである。
リジック率いるFPIは、3年前のジャカルタ州知事選挙で、当時のアホック州知事を宗教冒涜と糾弾し、アニス候補の当選に大きく貢献した。昨年の大統領選挙でも、プラボウォ候補を支え、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領を、「反イスラム」で共産主義勢力だとする陰謀論キャンペーンを展開した。ジョコウィ政権にとって、FPIと、その扇動的リーダーであるリジックは、ずっと「目の上のたんこぶ」だった。
そのたんこぶを取り除く絶好の機会がコロナ禍で到来した。FPIは、路上での大集会を演出して勢力誇示する政治を得意としてきた。これを逆手に取り、コロナ対策違反を掲げてFPIを叩く。多少強引に取り締まっても、「市民の命を守るため」という道徳を前面に出せば世論もついてくる。
この計算があって、ジョコウィ政権はリジックのサウジからの帰国を誘導した。オムニバス法案の可決後というタイミングも、偶然ではない。そして案の定、ジャカルタと西ジャワ州で大衆動員を煽り、コロナ規制違反を誘発した容疑で、リジックは事情聴取からの身柄拘束となったわけである。
この政治ゲームは、さらに治安機関内部の人事政治とも共鳴しつつある。具体的には、警察長官と国軍司令官をめぐる人事であり、前者は来年2月、後者は11月に退官となる。
次期警察長官候補として有力だったジャカルタ州本部長は、リジックのコロナ対策違反を防げなかったとして更迭された。新しい州本部長はかなりの強硬路線でリジックとFPIを締め付けている。発砲も辞さない態度だ。政権中枢への「やる気アピール」は隠せない。
ジャカルタ軍管区司令官も、いち早くFPIへの強硬路線を訴えた。「問題を起こすならFPIは解体だ」とし、兵士たちに街角に掲げられたリジックの垂れ幕を撤去させた。
このジャカルタの司令官は、ジョコウィが属す闘争民主党に親の世代から強いコネを持つ。そして、もし次期国軍司令官にいまの陸軍参謀長が抜擢されれば、その空いたポストに誰が就くかの競争に参加する当事者でもある。「やる気アピール」で目立つ格好となったジャカルタの司令官の言動は、そのレースを意識していないわけがない。
このように、少なくとも3つの異なる次元の政治が共鳴しあって、リジックとFPIに対する強硬路線が推進されていることが理解できよう。「コロナ対策を軽視する輩は許さん」という大義名分が、そういう政治ゲームのカモフラージュになっている。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)