オムニバス法の立法過程

 先週は政治が激しく揺れた。5日、突然の雇用創出オムニバス法案の可決。それを受けて大規模な抗議デモ。その一部の暴徒化で治安問題に発展。政府はアナーキーな暴力活動に的を絞り、デモ企画者たちへの世論批判を煽る。
 このオムニバス法については、賛否の溝が深まっている。投資環境が改善され、雇用も増えるとアピールする政府や財界。逆に雇用環境は悪化し、労働者の生活難は続くと訴える市民社会勢力。さらには環境保護の脆弱化を懸念する環境団体。こういう様々な立場の主張は平行線のままだ。
 ただ、賛否両論であるにせよ、法案である以上、決められたルールに則って国会審議がなされ、それで可決となれば法律は正統性を持つ。それが民主政治だ。逆に言えば、その審議過程がトリッキーなものであれば、いくら可決されたとしても正統性が担保されたとは言えない。法への賛否を超えて、その観点から改めて考えてみたい。
 初めにジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領がオムニバス法案を提案したのが昨年10月だ。その年末に起草原案が準備された。当時、政府は「法案は雇用を創出して労働者の福祉も向上する」と言うものの、それで影響を受ける人たちの意見をヒアリングしなかった。労働団体が不信感を持ち、起草原案を入手して問題点を指摘したものの、政府は、その原案は古いものだ、ソーシャルメディアに出回っているのはフェイクだとして、説明を避けてきた。
 立法の過程には「透明性と市民参加を促す義務」を定めた法律(2011年法律12号)がある。それに照らすと、今回のオムニバス法案は、透明性も参加も拒否して、超特急で準備したものであることが分かる。
 その原案が国会で初めて議論されたのが今年の4月である。既存の79の法律を一気に修正するオムニバス法案の審議期間は半年にも満たない。しかも、その審議過程はかなりトリッキーなものだった。
 まず法案は国会の立法部会で審議される。この部会は、与野党の議員80人で構成される。各法案には「討論リスト」があり、部会はリストにある全ての項目を審議しなければならない。しかし今回、与党連合は部会内に突如「作業委員会」を作り、討論リストの審議を委員会に委ね、部会での審議を省くという裏技を使った。その委員会は野党議員を排除し、実質的に与党議員だけで「審議」する形で部会を通過させた。部会で与野党交えて審議しないのは、明確な国会議事規則違反だ。
 また、起草原案にない規定も途中から追加した。今回のオムニバス法には税に関する三つの法も含まれているが、それらは4月からの国会で審議されていない。重要な税制改革の議論をせずに、オムニバス法に忍び込ませるという裏技である。
 こういう立法過程をみると、今回の法案可決はトリッキーな手法を駆使した与党議員たちの努力の結晶だと理解できる。法への賛否を超えて、その手続き的正統性には大きな疑問が残ろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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