テフロン大統領

 昔アメリカのレーガン大統領のことを、傷がつきにくい鍋に例えて「テフロン大統領」と呼んだ。なぜ無傷でいれるのか。政治学は「傷つき防止策」の典型として、「責任転嫁」と「目くらまし」を指摘する。
 先月半ば、有名な世論調査機関「インディカトル」が、コロナ禍の全国世論調査の結果を発表した。「大統領の仕事ぶりをどう評価しますか」という問いに、回答者の65%が「満足」と答えた。これは興味深い。
 7月中旬といえば、コロナの感染者数が中国を抜いて8万を超え、死亡者数もウナギ登りで増加していた。そうなる理由は明らかで、6月に政府が行動規制を緩和し、大規模社会制限からニューノーマルに移行すると宣言したからである。これで人の移動が増え、市場や宗教施設だけでなく会社でもクラスターが発生するようになった。
 公衆衛生の専門家や医師会などは、こぞって政府の「経済優先体質」を批判してきた。であれば、感染拡大を止めれない政府に対して世論も怒り、政権リーダーへの不満も増大して不思議はない。だが、ジョコ・ウィドド大統領はテフロンであることを世論調査は示している。なぜ彼に傷がつきにくいのか。
 実は彼は政治学理論に忠実だった。まず「責任転嫁」だ。6月から7月にかけて、閣僚会議で頻繁に怒りを大臣らにぶつける姿が報道された。「危機意識が足りん」「支援が末端に届いとらん」「医療現場の状況が改善されとらん」など、関連大臣非難とも取れる発言を連発し、それを通じて「国民の懸念を代弁する自分」を演出した。このメディア効果は大きい。色々うまく行かないのは大臣や官僚が悪いから。世論はそう取った。スケープゴート作戦の成功だ。
 「目くらまし」も披露した。感染が減らない原因を「市民のだらしなさ」にすり替える言動が目立っている。マスクをしない。手を洗わない。ソーシャルディスタンスを守らない。「ぐーたら市民」が規律を無視するから感染者が減らないんだと言うかの如く、返す刀で罰則規定を導入して、警察・軍に法執行の徹底を命じ始めた。
 いつの間にか、市民のモラルが焦点となり、マスクや手洗いをしない「不届き者」をなくそうというキャンペーンに人々の関心が注がれていく。効果的な「煙幕」投下だ。
 いつまでテフロンは「無傷効果」を維持できるのか。国民経済の行方にかかっていよう。貧困増加が懸念されるが、最良シナリオでも年末に貧困率は約10%となり、新たに130万人が貧困層に加わる。最悪シナリオだと約17%まで増え、2千万人近くが新規に貧困となる。
 そうなったとき、テフロンのコーティングは簡単に剥がれて鍋は傷だらけで使えなくなってしまうのか。それとも新たな「傷つき防止策」が披露されるのか。その行方を見守っていきたい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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