コロナと過激主義
コロナ禍で約3カ月が経ったが、なかなか感染カーブはフラット化しない。一方で経済活動の停止にも限界がある。医療と経済のはざまで、多くの国民は不安な日常を送ってきた。しかし世の中は色々。この危機で元気になっている集団もいる。暴力的過激主義の人たちである。
3月には中部ジャワ州のバタン県で4人が逮捕され、4月にも北スラウェシ州、東南スラウェシ州、マルク州、バンテン州、そして東ジャワ州のスラバヤ市とシドアルジョ県で何人も逮捕された。5月には西ジャワ州のタシクマラヤ県やリアウ州、そしてまたもや中部ジャワ州のバタン県、さらには古都のソロで多くが逮捕された。
逮捕された多くは、中東のイスラミック・ステート(IS)を支持する過激派組織ジェマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)を信奉しており、国家警察の対テロ特殊部隊が踏み込んで逮捕に至っている。
なぜ過激主義の動きが活発化しているのか。コロナショックが後押ししているからだ。彼らの世界では今、新型コロナウイルスが、新疆ウイグル自治区でムスリムの同胞を弾圧する中国政府に天誅を下していると語られている。そして、このウイルスは「隠れ救世主」とも言われるイマーム・マフディーが率いる救世軍に他ならないと語られている。その教えを全面に掲げ、中国や中国人に対するジハードを呼びかけているのである。
こういうメッセージが、ソーシャルメディアの過激チャンネルを通じて全世界に発信され、インドネシアでも、「大規模社会的制限(PSBB)」でステイホームが長引くなか、自宅でのネット時間が増え、こういうメッセージに触れる機会も増し、感化されていく人たちも増加している。
最近では機密性の高い暗号化通信アプリのテレグラムで多くの過激主義のメッセージがやり取りされているが、国内で少なくとも50チャンネル以上、暴力的なジハードを唱えるものがある。各チャンネルから、1日100通ほどメッセージがくるので、10チャンネル登録していれば、1日千通の過激メッセージを日々受け取ることになる。この大量で強度なアピールの渦に身を任せるなかで、徐々に過激がニューノーマルになっていくのだろう。
過激な組織は、コロナ禍の草の根チャリティー活動を通じた資金調達と仲間集めも活発にやっている。JADに限らず、各地で過激勢力のメンバーが組織するチャリティー活動があり、コロナ危機下の助け合いの名の下で、カンパを募ったり、相談会を開いてオルグに励んだりしている。
このように、多くの人にとって、コロナショックは未曾有の災難でしかないものの、ある集団にとっては絶好の機会を提供している。西洋ではない「新たな敵」を見出す過激勢力に対して、新たな対テロ戦略が求められよう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)