データの政治

 533人。先週土曜日、保健省は1日当り過去最多となる新型コロナウィルス感染者の新規認定件数を発表した。ジョコ・ウィドド大統領が「5月中に感染者増加のカーブをフラット化させる」と数日前に宣言した矢先だ。
 統計とデータがどれだけ信頼できるか。どの国でも議論になろう。ただインドネシアでは、データが政争になりつつある。特にコロナ危機で最も生活難が懸念される低所得層へのセーフティーネットをめぐって、データが政治化している。
 政府はセーフティーネット対策として約75億ドルの予算を組み、直接現金給付をはじめとする生活支援策を各種打ち出している。その決断は高く評価されよう。
 とはいえ実施は別問題だ。各地で大きな混乱が起きている。支援が必要な世帯が資格なしとなったり、逆に低所得でないのに給付されるケースや、村長が提出した支援対象世帯リストを無視した配布が行われたりしている。その結果、住民トラブルが急増し、不満の矛先は地方自治体の首長に向けられる。
 地方首長にしてみれば、混乱の元凶は中央政府だ。社会省が管理する社会福祉の住民データがずさんでアップデートが遅いため、今の実態を反映しない給付が行われるのである。逆に中央は、そもそもデータは地方が上げてくるものを使ってると反論する。責任のなすり合いだ。
 住民から突き上げられる地方首長は、中央批判をエスカレートさせている。西ジャワ州のカミル州知事は、中央の各省が別々のデータを持って勝手に動き、地方のデータとすり合わせない。それが問題だと抗議する。
 中部ジャワ州のプラノウォ州知事も負けていない。各村落で支援配布が大混乱している原因は、実態を知らない中央に権限が集中しているからだと批判する。権限を村長レベルにまで降ろさないとダメだと声を荒げる。
 ジャカルタはもっと熱い。アニス州知事は、中央政府のデータを信じられないと言う。中央は8月までに感染拡大が終息するというが、そんなことは科学的根拠からして無理だと一蹴する。保健省の示すデータにも懐疑的で、その公式発表の約7倍の感染死者数がジャカルタの実態である可能性を示唆する。レバラン帰省を中途半端に禁止した大統領にも批判的で、レバラン後の感染第2波の到来を懸念する。
 この9月に予定されていた全国の首長選挙は、コロナ危機を受けて12月に延期となった。これで当面、コロナ対策が各地で選挙の政争の具にされることは避けられよう。しかしデータをめぐる中央と地方の政治対立は、今後一層深まっていくであろう。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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