学生デモと国会のはざまで

 先月末、学生中心の大規模な抗議デモが全国で繰り広げられた。あきらかに民主主義を骨抜きにする法案を国会が通過させようとしたからだ。その象徴が汚職撲滅委員会(KPK)の弱体化につながる法案であり、この暴挙に出た与党エリートたちに怒りをぶつけるデモとなった。
 警察との衝突で、これまで5人が死亡、250人以上が負傷している。これ以上の犠牲者はみたくない。そのためにも学生の主張を聞き入れたほうがよい。最新の世論調査も、学生支持の声が大多数である。
 KPKは「民主化20年」の肝だ。これまで多くの巨悪に汚職捜査のメスを入れてきた。だから政治家に嫌われる。それでもKPKが活躍できたのは、民主改革を止めては駄目という世論の強い意志があったからだ。
 いま与党幹部は、その意志に背を向けようとしている。彼らの仲間が次々とパクられているからだ。昨年だけで22人の地方首長がお縄頂戴となったが、約半数はメガワティ率いる闘争民主党所属の首長だ。
 彼女自身も疑惑案件を抱えている。娘のプアンは国会議長に就任予定だが、彼女の総資産は驚くことに過去8年間で10倍に膨れた。KPKが関心を持ってもおかしくない。
 学生たちは、KPK法改正を無効化するため、大統領に法律代行行政令の発令を求めている。有識者懇談会で、その後押しを受けた大統領は、行政令発動に傾いている。世論に背を向けたら自らの命取りになることを大統領は理解していよう。
 しかし、与党幹部はジョコウィに妨害されないよう圧力を強めている。行政令を出したら弾劾も辞さないと息巻く。
 学生運動の切り崩しも進めている。歴史も深く規模も大きいイスラム学生同盟(HMI)は、政治家の登竜門だが、ここは今回のデモを静観している。多くのOBが与党議員になっていることと無関係ではない。
 同じく歴史のあるインドネシア・イスラム学生運動(PMII)は、国内最大のイスラム団体であるNUの系統だが、ここも静観だ。今のKPKはイスラム過激勢力に支配されて危険だとし、むしろ法改正に前向きだ。
 このように学生運動は一枚岩ではない。今のデモは四つのグループがリードしてきた。有名国立大が動かす全インドネシア学生評議会(BEM SI)が目立つが、野党系の学生団体がバックにいる。そのライバルがヌサンタラ学生評議会で、小規模私大を多く取り込む。他にも共和国学生評議会や、愛国主義学生評議会などが活発だ。
 大統領は世論をバックに、流れを変えることが強く期待されている。今月20日の就任式の直後に行政令を発動する。それができるか、できないか。彼の運命をかけた決断になろう。
(立命館大学国際関係学部教授 本名純)

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