【メラプティ】 オッサン世代の危機感

 5月は各地でレフォルマシ(民主改革)の時代の20周年を記念するイベントが行われ、メディアでも「スハルト後」の民主化の成果を議論する企画が多く見られた。本紙の読者も20年前のインドネシアにさまざまな思い出があると思う。
 レフォルマシに対する思いは世代で違う。我々オッサン世代の思い入れは比較的に強い。だが若い世代は違う。来年の大統領選挙の有権者数は約2億人だが、その半数が17歳から35歳のヤング層である。スハルト時代などほとんど知らない人たちだ。スハルト時代を知らなければ、その後20年におよぶ民主化努力への関心も低くて同然。危機感も薄いと思われる。
 逆にオッサン世代の危機感は増している。インドネシアの民主主義の質的悪化が顕著に言われるからだ。経済誌「エコノミスト」の調査部門が発表する「民主主義指数」がよく用いられるが、同国を「欠陥民主主義」と認定する。特に2017年は過去10年で最も低い評価で、もうちょっとで民主主義とは呼べない政治だと警告する。
 欠陥の主因は、社会の多様性に対する不寛容な行動の増加である。性的・宗教的なマイノリティー集団に対する迫害は深刻だ。国内の調査機関であるワヒド財団やスタラ研究所によれば、宗教的マイノリティーが迫害される事件は年間200件を超える。過去3年でみれば増加傾向にある。
 人権侵害だけでなく、民主化で役割を限定したはずの国軍の役割増大も近年の傾向である。テロや治安事件が起きるたびに国軍復活論が浮上し、ずるずると軍の活動範囲が広がっている。これもレフォルマシの後退でしかない。恒常的な政治腐敗も、法の支配が弱いことの証となって「欠陥民主主義」の深刻化に貢献する。
 ではレフォルマシの20年は挫折なのか。欠陥はさらに悪化して民主主義と呼べない政治になっていくのか。それは違うと断言したい。確かに民主主義を脅かす勢力が攻勢であることは事実だ。しかし、民主主義を守ろうという勢力も実は強固に存在する。
 さまざまな問題に取り組む市民団体が地方に根を張り、民主政治の日々の運営を末端で支えている。世論調査も国民の強い信頼を確保しており、政権の方針を変える力を持っている。このような民主主義のガードマンたちは、この20年で確実に成長している。
 彼らを吹き飛ばして、民主主義を決壊させる力を持つものなど存在しない。危機感は大事だが、ガードマンを信頼して、冷静な状況判断をする。それがオッサン世代の正しい見方であってほしい。(本名純・立命館大学国際関係学部教授)

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