【メラプティ】成功と失敗の不思議な共存 大忙しの政治の年
新コラム「メラプティ」をきょうから掲載します。筆者は本名純・立命館大学国際関係学部教授です。インドネシアの政治・社会を中心にいろいろなテーマを「本名」流に論じていただきます。毎月第2月曜に掲載します。
ことしのインドネシアは「政治の年」である。その目玉は6月27日に予定されている全国一斉に行われる統一地方首長選と、その約1カ月後に控えた大統領選出馬候補者指名だ。5年に1度の大統領選挙と議会選挙は来年4月に実施されるが、その候補者はことしの8月に決める。当然それをにらんだ6月の地方知事選挙になる。その地方知事選に出馬する候補者指名が元日から始まり、各政党は各地で候補者選びに大忙しだ。
政治など関心ない、アホくさい。そう思う人は、この1年がとても退屈になる予感で驚がくしているかもしれない。そんな思いをさせたくない。その一心でこのコラムを始めることにしました(笑)。
ことしの政治の醍醐味(だいごみ)は、なんと言っても候補者選びのドラマである。171の地方自治体で首長選が予定されており、「庶民派」「改革派」「実行派」の候補者が各地で続々と名乗りを挙げている。そういう人たちは地元住民の人気も高い。例えばマカッサル市長選に出馬する1人や、西ジャワ州知事選に立候補する1人は、そういう人気者の典型だ。各地で、このような庶民派で改革志向の政治リーダーが台頭している。これは民主化インドネシアの大きな実りであり、未来への明るい展望を示している。
しかし、その裏側で、政党のうさんくささが露呈している。与野党問わず、各政党は、人気の候補者に抱きついてぶら下がろうと必死だ。知事選では、その地方の議会で一定の議席を持つ政党が知事選候補者を立てるという選挙ルールのため、各政党は人気の候補者に接近し、党の公認として擁立する代わりに副知事候補を政党に任せろという交渉を進めている。この副知事候補が結構なくせ者たちで、金を積んで候補になろうとしているやからが多い。これは政党の金権腐敗体質の極みであり、民主化インドネシアの失敗を象徴している。
つまり、今の時代、優れたニューリーダーが全国各地で誕生しやすい政治環境になりつつも、政党はダメダメで、有能な政党政治家を育てることに失敗してきたと言えよう。この成功と失敗の不思議な共存が、民主化から20年を迎えるインドネシアの政治の姿である。その容貌がくっきりと浮き彫りになる年——そんな2018年になるのではないか。このコラムを通じて、その姿を映し出して行きたいと思う。(編集部)
本名純(ほんな・じゅん)
99年オーストラリア国立大学で博士号取得。00年から立命館大学国際関係学部で教鞭をとる。インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員やインドネシア大学政治社会学部連携教授など歴任。著書に「民主化のパラドックス〜インドネシアにみるアジア政治の深層」(岩波書店)=大平正芳記念賞=など。50歳。東京都出身。