モナスの向こう側の芸術拠点 ギャラリ・ナショナル・インドネシア
ジャカルタにある博物館と言えば独立記念公園「モナス」の西側に位置し象の銅像が目印のインドネシア国立博物館がその筆頭。このインドネシア国立博物館からモナスを挟んだちょうど反対側、ガンビル駅がある東側にインドネシアの重要な芸術作品を展示するギャラリ・ナショナル・インドネシアがあります。インドネシア国立「美術」館と表記されることもあることで象の国立「博物」館と混同されやすく、知名度も国立「博物」館級にはあと一歩というところになってしまっているようですが、そのコレクションは必見。今回のおすすめ観光情報は中央ジャカルタのギャラリ・ナショナル・インドネシアを紹介します。
ジャカルタの虎ノ門を彷彿とさせる官庁街、中央ジャカルタのガンビル駅周辺には仰々しい門構え、入場時のセキュリティーチェック、敷地の奥が見渡せない構造など、外側からだと少々敷居が高く感じる建物が並んでいます。ギャラリ・ナショナル・インドネシアもその古い佇まいから「入っていいのだろうか」と戸惑う雰囲気ですが、「展示を観に来ました」と告げるとセキュリティーは快くチケット売り場を示してくれるので心配は要りません。チケット購入では氏名などのレジストレーション制が導入されていたり、館内帽子着用不可などセキュリティー対策が徹底されている様子に国宝級の美術品が展示されているという期待と緊張感が高まります。
ギャラリ・ナショナル・インドネシアの開館は1999年。元は1817年にオランダ人の住居コンプレックスとして建設され後に学校としても活用された建物なのだそうです。敷地内の建築群は確かに美術館というよりレジデンスや学校だったと聞くとしっくりくる細長いレイアウトで入り口から見るよりずっと広く感じます。
常設展はバリ絵画やインドネシア各地の古い写真から始まり、巨匠作品、日本軍政時代の雑誌や新聞、彫刻、現代のインスタレーションや立体作品など多岐に渡ります。作風の好みを問わずギャラリー全体で様々なアートを鑑賞し、インドネシアのアートシーンの流れを感じられる見応えたっぷりなコレクションと構成です。
巨匠の作品ではっと目を引く絵画のひとつ、繊細で感情までも伝わってくるようなバスキ・アブドゥラの「私の母」。しわしわな手、白髪交じりの髪の毛、作家の母への思いが溢れる作品です。
バスキ・アブドゥラは日本軍政期に日本政府が開設した啓民文化指導所で絵画指導もしており、その時代の印刷物コーナーには当時39歳のバスキ・アブドゥラが絵筆を握る写真と記事の掲載紙も展示されています。
彫刻作品にも注目してみましょう。今にも叫び声が聞こえてきそうな表情で両手を天に広げるジェスチャー。ギャラリ・ナショナル・インドネシアから車で5分ほどのところにあるバンテン広場に建つエディ・スナルソ作「西イリアン解放記念碑」の縮小版です。手かせ足かせの鎖が切られ、全身で自由の身となった喜びを表現する男。
エディ・スナルソはインドネシアを代表する彫刻家のひとりで、ジャカルタのランドマークであるホテルインドネシアのロータリーに建つ「歓迎の塔」の作者でもあります。これを見ると下半身が上半身に比べて細身であること、頭部がバランス的に大きいことに気付きます。実物を下から眺める時の遠近法が計算されていて、遠景でも人物の力強さや迫力の表情が観られる理由です。
まだまだ詳細を紹介できない作品が多数展示されているギャラリ・ナショナル・インドネシアは、期間限定の企画展や週末のイベントなども積極的に開催していてインドネシアの芸術文化を内外に発信する重要な拠点にもなっています。鑑賞後には、アートを通じてジャカルタの今の時代に自然に導かれてきたような感覚に満たされるでしょう。皆様も是非足を運んでみてはいかがでしょうか。(旅とアートのクリエイター 水柿その子 写真も)
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