【中部観光特集】 「ようこそ」中部地方観光へ 富士、アルプス、海と山の幸 日本人のサービス精神に驚く 涙ぐましい日本の田舎 インドネシア記者とバスの旅
「日本の感動のすべてはここにある」―のキャッチフレーズで海外からの観光客招致に力を入れている中部広域観光推進協議会(富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀の九県と三市)はこのほど、シンガポール航空と協力し、インドネシア、シンガポール、マレーシア、豪州のジャーナリスト十四人を中部国際空港経由で中部地方の観光スポットに招待し、東南アジア諸国の富裕層に向けた観光宣伝に乗り出した。東京と京都を結ぶゴールデン・ルートに対抗し、地勢学的に「日本の中心」である名古屋を拠点に、富士山と東海・北陸の海の幸、日本アルプスと長野や飛騨の温泉郷など山岳地帯の伝統文化、紅葉、雪景色、名古屋と静岡の商店や工場視察など、多彩でローカル色に溢れた中部日本の旅をインドネシアの旅行代理店に積極的に売り込む。日本政府の「新成長戦略」の柱である観光立国・地方活性化に沿った試み。日本初訪問のインドネシア人記者たちは、古い城郭や寺院や茶室を大切に保存し、伝統文化と近代的な工場を共存させ、親切で、礼儀正しく、思っていたより慎ましい生活を送っている日本の田舎の人々に身近に接し、単なる観光旅行でない「日本人の心」を感じる旅を楽しんだ。
シンガポールのチャンギ空港を未明に発ったシンガポール航空A330型機は午前八時すぎ、中部国際空港に着いた。早朝というのに、空港会社やJTBの職員がロビーに駆け付け、「ようこそ日本へ」「ウェルカム」の横断幕で、インドネシア人ジャーナリストを歓迎し、資料がどっさり入った袋を用意してくれた。四季折々の写真、英語、中国、韓国語の説明。各県ごとのツーリストセンターの電話番号が書き込まれ、英語が話せる職員が対応してくれる。
中部国際空港は二〇〇五年、愛知万博の一カ月前に開港。中部地方の自治体や観光協会と協力し中部地方の観光の魅力を海外にPRしてきた。
二〇一〇年の国際線旅客は前年比五%増の約四百六十万人、国内線は同三%減の四百九十万人。アジア各国を結ぶ路線を拡充する一方、欧米への乗り換え客の需要を増やし、中部地方の観光振興に貢献しようと海外での宣伝を強化している。
中部広域観光推進協議会の誘客促進担当部長の岩本弘一さんは「新たな観光客としてインドネシアの富裕層を大歓迎します。名古屋は日本の中心に位置し、どこに移動するにも便利です。東南アジアからも近いし、春夏秋冬、日本の観光のすべてがそろっている。富士山や日本アルプスがあり、スキーもできます。インドネシア人は親日的で日本にあこがれる若者が多いと聞きます。格安航空(LCC)の便が増えるので、インドネシアの若者にぜひ来てもらいたい」と語る。
一行は中部国際空港を観光バスで出発。浜松、静岡、御殿場、松本、上高地、奥飛騨温泉郷、高山、岐阜の観光名所を訪れた。宿泊は伊東市、長野市、岐阜県高山市、名古屋で計四泊。富士山、日本アルプス、浜名湖、山中湖など雄大な自然だけでなく、うなぎ食べ放題、マグロの解体、地ビール飲み放題、茶の湯の体験、アウトレットやテーマパークでの買い物など盛りだくさんの体験。
なにより記者たちを喜ばせたのは初体験した懐石料理。出てくる料理をひとつひとつ写真に収め、材料の英語訳や調理法を聞き、メモした。刺身や天ぷらなどアジアではおなじみのメニュー、山海の珍味、清潔な青空市場の果物や菓子類、民芸品などにも興味を示した。松本のレストランの女将と対話したり、ベテランの芸子さんに三味線を披露してもらう場面もあった。
豪華な旅をより楽しく、記事を書きやすくしてくれたのは、ガイド役をしてくれた各県や市町村の観光課や観光協会の担当者やボランティアたち。日本の政治、社会、歴史から日本語や日本料理まで豊富な知識で記者たちの質問に英語で答えてくれる通訳。名所旧跡、レストラン、電話帳、地図や写真入りのパンフレットの数々。職員を海外に駐在させ、英語、中国、韓国語を勉強させたり、外国の地方都市と姉妹都市を結び、交換人事をしている自治体もある。
飛騨高山の旅館にはフィリピン出身の女中さんが、たくましく働いていた。青空市場でリンゴをかじり、シンガポールのような大都市にない人間くさい観光地の魅力を発見。茶の湯の作法など日本文化への関心も高かった。
物づくりで世界を席巻してきた日本は外国の観光客を招くことに積極的でなかった。しかし、世界経済危機と超円高時代に直面した日本政府は、いよいよ本気になって年間三千万人の観光客誘致を目指す。アジアから観光客を受け入れるため、町や村も工夫を凝らして待っている。
そうした日本人の情熱と熱意を感じ取ったアジアのジャーナリストたちは「ありがとう。また来ます」とバスの窓から手を振ったり、旅館の従業員やガイドに「テリマカシ」「ありがとう」を連発していた。