大臣ポストの数

 プラボウォ新政権の発足がいよいよ今月20日に迫ってきた。同じタイミングで新政権の閣僚メンバーも明らかになる予定だが、今回話題になっているのは、法律改正により、大臣ポストの数を現状の最大34人から44人にまで引き上げる見通しであることだ。
 この動きに対しては現地メディアや識者の間で賛否両論が飛び交う。賛の方の意見は、新政権が新たに打ち出す施策の推進には大臣級の権限が必要で、これは既存ポストとは切り離した方がよいとの見方。一方、否の意見は、汚職の余地を広げる可能性や、行政手続きの複雑化の可能性を指摘するものが多い。大臣ポストの増加が選挙協力や連立参画に対する論功行賞的な色彩が強いとなれば、そういった懸念が高まるのももっともだろう。
 大臣ポストの数に適正レベルがあるのかどうかはわからないが、44という数は国際的に見てもかなり多い部類に属するようだ。制度上の違いもあって単純比較は難しいが、たとえば日本の大臣ポストは特定の行政事務を所管しない特命担当の大臣も含めて最大19人までとなっている。先週発足した石破新政権も19名の大臣を指名した。米国はいわゆる大臣ポストとなると15人だが、他国の大臣級にも相当し得る閣僚級高官まで加えると26人。定義はさておきポスト数だけ並べると、中国26、マレーシア31、タイ20、ブラジル23、南アフリカ32と他の中進国を見ても相応に抑えられた水準だ。ただインドは58と突出しており、同国の官僚主義的な政府機構との関連を勘繰りたくなる。
 インドネシアも過去を遡ると、スカルノ時代には最大132人もの大臣がいた時期があるらしい。ただ、2008年に大臣ポスト数を最大34とする法改正がなされて以降はその範囲内での運用が続いてきた。
 このポスト数の議論を聞いていて、会社組織の設計にも似たところがあるのではと感じた。組織運営をめぐる議論の一つに「スパン・オブ・コントロール」、つまりひとりのマネージャーが責任を持つべき業務範囲や、部下の人数をどの程度とすべきか、といった論点がある。これが狭すぎるとマネージャーのポスト数ばかりが増えて、サイロ化に陥ったり調整業務が増えたりといった副作用が出てきやすい。逆に業務範囲が広すぎたり部下の数か多すぎたりすると、目が行き届かなかったり、オーバー・キャパシティで業務が停滞する、といったことが起きやすい。
 このスパン・オブ・コントロールも、業種や会社によってまちまちだし精緻な適正値があるわけではない。ただ米国の例を見ると、Fortune500企業のCEO直下の経営メンバー数は、80年代には平均5人前後だったものが2000年代には約10人へと倍増している。逆にかつては一般的であったDeputy CEO(いわゆる副社長)ポストは急減した。IT化の進展や各業務領域で専門化が進んだことで、トップ自らがより直接的に重要領域に関与していく必要性が高まったことがひとつの背景と言われる。
 今回の大臣ポスト数の増加そのものがどのような影響をもたらすのかは予測しがたいが、組織運営の論点に照らしてみると、44人もの部下を抱えるとどうしても直接的な関与やガバナンスが効きにくくなる、また一人ひとりの大臣の権限範囲が狭くなると、それぞれの責任範囲の重複や綱引き、その結果としての非効率な業務といったような結果を招きやすくなるのではないかと感じている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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