サプライズ利上げ
「世界情勢の動きが速いので、(金融政策も)改めて月ごとにレビューしていく必要がある」。
先週木曜日、インドネシア中銀が9カ月振りの利上げを決めた。0・25%の引き上げで、これにより政策金利は6%となる。6%の大台に乗せるのは4年ぶりだ。今月6日にはペリー中銀総裁自ら当面の政策金利据え置きをサポートするコメントを出していたし、またそれもあってアナリストの事前予想では31人中30人が金利据え置きを予想していたので、今回の利上げはまさにサプライズであったと言えよう。
冒頭のコメントは先週木曜日の利上げ発表時の中銀総裁によるものだが、これまで想定していた状況に変化が起こっていること、そしてそれが、わずか2週間ほどの間に政策金利に対する判断を大きく変えるほどの変化であったことを示唆している。
この2週間のうちに起こった変化の一つはやはり中東での戦争勃発だろう(やや皮肉なことに、中銀が金利据え置きについてのコメントを出した翌日の今月7日にハマスによるイスラエル攻撃が始まった)。原油価格をはじめコモディティ価格も早速反応して上昇基調となっているが、今のところ金融市場の方に直接的に大きなインパクトが出ているかというと、そこまでではない。ただ今後、戦争が長期化するようなことがあると、原油価格の更なる上昇や安全資産としてのドルへの資金移動が起こって、エマージング国通貨には総じて逆風となる可能性がある。
ただ中銀にとってよりショッキングだったのは、急ピッチで進んだルピア安そのものだろう。昨年来、ドル金利が急ピッチで上昇する中でもルピア為替の水準はある程度安定的にマネージされてきたが、足下のルピア安の流れは、他のアジア通貨と比べても明らかに急だ。9月初からカウントすると対ドルで4%を超える下落、また直近2週間の下げスピードは、コロナ禍の2020年2〜3月でのルピア急落に次ぐほどの速いペースだ。
今回の利上げ決定に際しての声明では、利上げの判断が「ルピア為替の安定をより強化」することと「ルピア安進行による輸入インフレの防止」を企図した「予防的措置」との見方が示された。後者のインフレの観点では予防的措置と言えるが、前者の為替の安定については、現実的には「予防的」のレベルをやや超えてきている。中銀にしてみると、外貨準備を費消して介入を続けるよりも、利上げという一段踏み込んだ手を打つ必要性を実感するに至ったということになろう。
先週木曜日の午後に行われた利上げ発表後、翌金曜日はルピアの対ドルレートは1ドル15800ルピア台とほぼ同水準で変わらなかったが、今週月曜日に入ってまたルピア安が進み、あっさり15900ルピア台をつけた。先週、このコラムで触れたことの繰り返しになるが、ドルの金利環境が変わるまでは、ルピアにとって険しい道が続くことになのではないかと見ている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)