「ガムランで世界をハッピーに」 中野千恵子さん コロナ禍で紡ぎ直す絆
「ガムランは相手の気持ちを伺い、周りの動きを読みながら合わせていく音楽。うまくハーモニーが取れて、バチっと演奏できた時の快感が最高です」。ジャワガムラン楽団「スルヨララス・ジュパン」を主宰する中野千恵子さんは語る。新型コロナ問題で希薄になりがちな人同士のつながりを、ガムランで紡ぎ直していく。
「音がキラキラと光っているような感じ。ずっとその中に浸っていたいと思った」。1998年、家族旅行で訪れたインドネシアで、初めて聴いたガムラン。夫の駐在に帯同する形でインドネシア生活が始まった2002年、その調べを思い出した。
日本では激務の日々が続く会社勤務だったという中野さん。慣れない専業主婦生活が続く中、「何かしなくちゃ」という思いから、ジャワガムランを練習する在留邦人グループに加わった。
夫の帰任が決まった際も、ガムランを続けるためジャカルタに残った。「本能的にガムランを続けるべき。ならば、ここにいなければいけない。そう思った」。家族も背中を押してくれた。
現在は月刊情報誌「Sarasa」の編集長を務める傍ら、週末にスルヨララス・ジュパンなどで活動を続ける。
スルヨララス・ジュパンには日本人とインドネシア人、音楽経験などは問わず、さまざまな背景を持つ人がメンバーに加わる。
「上手な人も、そうでない人も、同じ輪の中で助け合いながら演奏するのがガムラン。メトロノームでは図れない人間臭さがあり、その全体の調和でいかにきれいな演奏を作るか。それが心地いいんです」。
練習後は中野さん手作りの食事を囲むなど、メンバー同士が自然と互いの人となりを理解し、絆を深められるような工夫も凝らす。自身も参加するジャワ人によるガムラングループでの活動を見習ってのことだ。
「暖かい音に囲まれながら、演奏を通じて人とのつながり感じることが、今、必要なこと」。新型コロナの感染拡大で、普段の練習にも制限が加わるが、それを他人にも伝えていく。
中野さんの活動理念は「ジャワガムランで世界をハッピーに」。共に演奏する喜びを分かち合いながら、幸せの輪を少しずつに広げていく。(おわり)
※この連載は、高地伸幸、長谷川周人が担当しました。