【じゃらんじゃらん特集】 ユネスコ認定で観光客増加
今年6月、バリ島の棚田が国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産として認定された。タバナン県ジャティルイ、バンリ県バトゥール湖、バドゥン県タマンアユン寺院を含む五つの棚田地帯、約1万9500ヘクタールに及ぶ地域だ。棚田は景観としてだけでなく、それを1000年以上にわたって支えてきたスバックと呼ばれるバリ独特の水利システムが評価された。今回、棚田見学を企画した植林ボランティアの「バリの森を考える会」の光森史孝さんらに同行し、バリ初の世界文化遺産の一部となり、観光客が増加しているジャティルイの棚田を訪れた。(北井香織)
■スバックが支える
曇り空の下に田植えを終えたばかりの棚田が幾重にも連なり、見渡す限り、複雑な模様を描いていた。棚田に水をもたらしている山々は霧に覆われほとんど見えない。デンパサールから北西へ約50キロ、標高700メートル。ひんやりと澄んだ空気が心地よい。
よくこれほどの規模の棚田を作り上げたものだ。
一体いつごろから今の形になったのだろう。「記録がないので分からない。自分が生まれたときからジャティルイはこうだった」とニョマン・スタマさんが答えた。ニョマンさんはジャティルイの七つのスバックの長を務めている。スバックは宗教行事を含めた、稲作に関わるすべての活動を取り仕切る組織の呼び名でもある。
「スバックは山から流れてくる水を引き、棚田の端から端まで公平に行き渡るよう機能している。また儀礼を執り行い、水田の管理を行う独自のグループでもある。バリの歴史と同じようにスバックを短時間で説明するのは到底無理」とニョマンさんは何度も強調した。
■有機栽培の赤米
世界文化遺産に登録されて以来、観光客の数は1日約200人だったのが300人以上に増えたそうだ。「外国人、インドネシア人を問わず、大勢の人が来るようになった。バリ人でもそれまで知らなかった人が訪れるようになった。世界文化遺産登録は棚田と水利組合の存続に大きなプラス」とニョマンさんは話す。
眺めの良いスポットには観光客の車が十数台停まっていた。しかし人の姿はそれほど目立たない。レストランの近くには貸し自転車を置く店や、棚田を見渡せる宿泊施設があった。
棚田で作られるコメの80%は有機栽培によるものだそうだ。ニョマンさんのお薦めは赤米。「他の地域のものよりずっとおいしい」とのことで、高台のレストランで赤米を選んだ。少しぽろぽろとしているが、とても香ばしく独特の味わいがある。刺激的なインドネシア料理には白米より相性がいい。今度はジャティルイの風景を思い出しながら家で赤米を炊いてみよう。