ヤシ並木のビーチや温泉 中部スラウェシ州 将来性秘めた被災地
中部スラウェシ地震の被災地パル。2年前にこの地を初めて訪れたとき、なぜか懐かしい気分になった。海辺の市街地から南方に見える、雲をまとった山々が日本の風景を思わせた。ここで2千人を超す人命を奪う地震が起きようとは、当時思いもよらなかった。今回、現地を取材で回っていて目に入ったのは、この地の本来の美しさと、人々のほほ笑みだ。津波を免れたビーチにはヤシの木が並び、山裾には温泉が湧く。復興が進めば、観光客を引きつける魅力を秘めている。
最初にお断りする。パルとその周辺地域は現在、一般的な観光に「おすすめ」できる状態にはない。空港は一応復旧し、ジャカルタから直行便で約2時間半で飛べる。しかし、ホテルなども大きな被害を受け、一部が営業を再開したに過ぎない。今なお20万人以上が避難生活を送っている。
パル湾の東側を震源地方向へ北上すると、道路脇の山がところどころで崖崩れを起こし、危険な状態だ。津波で押し流された商店や、地震で倒壊したモスクが嫌でも目に入る。
しかし、ほとんど無傷の浜辺もある。パル中心街から崖崩れで足止めされながら約3時間半のドンガラ県ロンピオ村にあるシファレンタ海岸も津波の痕跡が目立たない。地割れした山道を通って海辺に降りると、ヤシの木陰のバンガローで男たちが昼寝をし、砂浜では若い男女がスマートフォンを手にはしゃいでいた。
「地震の前は、週末に友だちとよくここに遊びに来た」とパルの学生リズキさん(20)。たばこをくゆらせながら、水平線を見つめた。
パル湾の西側には、欧米人らが訪れるダイビングスポットもある。
パル南方のシギ県ジョノオゲ村では、液状化現象に伴う大規模な泥流で、幹線道路が消滅した。う回路の河原を渡り、さらに南下した山裾のボラ村ではレクリエーション施設「ボラ温泉」が、限定的に営業を再開している。
付近には源泉が湯気を上げ、透明な熱湯が湧いている。すぐにゆで卵ができそうな熱さだ。ジョノオゲ村の複数の被災者が「地震のときに噴き出した泥水は熱かった」と証言しており、一帯に温泉が分布している可能性がある。
ボラ温泉の管理と警備に当たるフェルディアンシャさん(30)は「パルの華人が温泉の土地を買っている。日本人も買いに来ないか」と話した。(米元文秋)