【じゃらんじゃらん】青と緑の秘境 手付かずの自然と文化 東ヌサトゥンガラ州スンバ島

 飛行機の窓から見えたのは、真っ青な海に囲まれた緑いっぱいの島、東ヌサトゥンガラ州スンバ島。激しく男たちが戦う祭事、王たちの歴史や祖先崇拝のモチーフを刻んだ織物「イカット」、小高い丘にひっそりと見えるとんがり帽子が集まったような村……。手付かずの自然と独自の慣習や文化が残されているこの島は、インドネシアの秘境の一つだ。

 スンバ島は人口約65万人、広さは約1万千平方キロで秋田県とほぼ同じ大きさ。飛行機ではバリ島か東ヌサトゥンガラ州クパンで乗り継ぎが必要だ。今回はジャカルタからバリへ行き、バリから1時間20分ほどのフライトで、南西スンバ県にあるタンボラカ空港に到着した。
 島民の多数はキリスト教徒で、教会や十字架をかたどった墓などがあちこちで見られるが、その一方で地元の土着信仰「マラプ」の習慣が残る。

 ドライバーを担当してくれたのは地元出身で20年以上、観光業をしているというジョン・ダンガさん。「スンバ島は西と東で、気候や文化も異なる」と話す。西側は雨が多いためトウモロコシやコメなど農業が盛んだが、雨が少ない東部では織物「イカット」が盛んになった。かつては農作物とイカットを物々交換していたという。
 イカットは王を象徴するカメやワニ、葬儀や踊り、かつての首狩りの風習などさまざまなモチーフがあり、この島ならではのデザインだ。
 東スンバ県で織られたイカットを見せてくれたのは、同県でイカットの製造・販売を手がけるフレディさん。一つ一つ手間ひまかけて作られたもので、完成に丸2年かかったもの、作成できるのはたった1人しか残っていないという泥染めで作られたイカットも見せてくれた。
■やりを投げあう男たち
 男たちが馬に乗って木製のやりを投げあう伝統行事「パソーラ」。豊作を祝う祭事で、毎年2月と3月に西・南西スンバ県の村で実施される。2月はコディ郡やランボヤ郡にある広場で開かれた。
 男と馬は着飾っているものの、鞍もつけず裸足で馬に乗り、やりを次々と投げる。そんな戦いの中で最も恐れられる存在は、右利きと逆方向となる「左利き」。左から放たれたやりが後頭部に刺さり、死者が出たこともあるという。
 とんがり帽子のような伝統建築も魅力の一つだ。西スンバ県ワイカブバ市にある草ぶき屋根の伝統家屋が残る村「プライ・イジン」へ向かった。山間の高台から臨む景色が美しい。
 とんがった屋根の部分は、マラプ(精霊)のための神聖な場所とされており、家屋であると共に祭事の施設でもある。
 美しい海岸や滝、棚田など緑豊かな自然にも恵まれている。移動中にふらりと立ち寄った海岸はどこも、真っ白い砂と真っ青な透き通る海で、思わず感嘆の声が上がる。

■海水で煮詰め塩作り
 南西スンバ県カテウェル海岸にはムスリムの漁民が暮らす小さな村があり、塩を生産している。海沿いの小屋をのぞくと、もくもくと煙が上がっている。
 西ヌサトゥンガラ州スンバワ島ビマで取れた荒塩を、海水で煮詰めていく。この塩はスンバ島内のみで流通しているという。
 パソーラの時期は、世界各国から観光客が訪れるスンバ島。次回のパソーラは3月8〜10日。辺境地だからこそ残る、ここにしかない魅力がいっぱい。戦いで盛り上がった後は、自然の中でゆったりとした時間を過ごしてみては。(毛利春香、写真も)

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