【モーターショー特集】 各社トップに聞く

 政府が近くまとめる予定の優遇税制「低価格グリーン・カー(LCGC)プログラム」をにらみ、各社がコンパクトカーのエントリーモデルをそろえるなど、例年以上に盛り上がりを見せる第20回インドネシア国際モーターショー(IIMS)。20日の初日に合わせてジャカルタ入りした日系メーカーの本社役員や現地パートナーのトップに、インドネシアの自動車市場の現状や課題、今後の戦略などを聞いた。

◇拡張で年30万台に−トヨタ自動車・布野副社長

 トヨタ自動車の布野幸利副社長は、今年にも100万台に到達する可能性があるインドネシアの自動車市場について、「ある程度の人口があり、経済も良く、経済発展段階的にも似たような規模感がある中国やタイ、インド、ブラジルなどと比べると、年間100万台という数字は比較的小さいと思っている」と指摘する。
 道路インフラの整備などまだ課題はあるが、政府も政策課題を強く認識しているとして、中長期的な成長はアップダウンを繰り返しながらも速いペースで進むと予測。トヨタとしても、今後4年間でコンパクトカー4モデルを投入し、年間生産能力も2014年に23万台という現在の計画からさらに引き上げ、30万台へ拡張すると明らかにした。
 03年に発表したアバンザ、セニアから始まったダイハツ、アストラ社との協業で、今回の来イに合わせ発表した小型車「アギア」は、インドネシア人も開発に加わり、国内市場に特化したモデルとなった。前部のエンブレムも、従来のトヨタのマークではなく、インドネシアの国章であるガルーダを模したデザインを採用、後部にはこれまでの「TOYOTA」だけでなく「ASTRA」の名前も入れられた。
 「LCGCプログラム」に参画する上で、裾野産業育成なども含めた政府の指導があったという事情もあるが、トヨタとしても、ほとんど前例のないこと。「グローバルな流れの中で、インターナショナルなところに目がいく時期もあれば、また国民車的な発想に自分の国のバリューや文化を大切にする方向に動く時期もある。インドネシア経済が成長し、新興国の雄として認識される中で、インドネシアの人々がインドネシアの意味合いを大事にするという時代にさしかかっているのではないか」と語る一方、インドネシア市場を重視していることの表れとも言え、「今回は日本人のチームに加え、インドネシアの人たちも(開発段階で)相当にインプットしてくれた。ガルーダという象徴的なものを選んだのは非常に良いこと」と評価した。
 LCGCプログラムの実施により、これまでになかった低価格帯のセグメントが創出されれば、現在、4割近いシェアを誇るトヨタに対し、競合他社が猛烈な追い上げを図ってくることが予想される。布野副社長は「シェアを減らす気はない。ただ増やすのは難易度が高い。われわれは長年にわたり、この国のポテンシャルを感じ、市場を開拓してきたが、今はこの国の経済が拡大していくということが世界中に知れ渡り、各社が積極的に事業展開している。非常に強力な競合相手なので、知恵比べの領域になる」と強調した。

◇タイに次ぐ拠点に−三菱自動車・益子社長
 三菱自動車の益子修社長は、インドネシア事業について、「タイに次ぐ拠点に育てたい。人口や国土を考えると販売台数はタイより大きくなるので期待している。」と意気込む。
 今回のモーターショーに合わせ、満を持してミラージュを投入。「われわれはこれまで商業車が強く、力を入れてきたが、これからは乗用車が伸びる。その需要増に合わせ乗用車のラインアップを強化していく。その中でミラージュが果たす役割は非常に大きい」と述べ、乗用車市場に本腰を入れていく構えだ。
 ミラージュについては、タイから完成車輸入するが、将来はインドネシアでの生産も検討していくとの意向を表明。「アウトランダー・スポーツの生産を始め、今度はミラージュを出した。ここでの生産ももっと増やせるようにしていきたい」と話した。
 頭金規制の影響については、「市民の生活・賃金レベルが上がり、市場も大きくなってきているので、大きな障害にはならないだろう。ガソリンとかディーゼルへの課税や政府の補助金の問題なども含め、短期的には影響があっても、乗り越えていくと思う」と述べ、より中長期的な視野で事業を進めていく方針を示した。
 1997年から2002年までインドネシア駐在。当時と今のインドネシアを比べ、「暴動もあったし、経済危機だったし、このようなきれいなモーターショーができるという姿は想像していなかった」と振り返った。

◇イは最重要市場−ダイハツ工業・伊奈社長

 ダイハツ工業の伊奈功一社長は「インドネシアは、最重要市場という位置付け」と強調する。ダイハツの海外生産のうち、インドネシアが7割を占める。「現地現物」のコンセプトで生産していく。
 インドネシア市場の今後の見通しについては、今年100万台を超えることも予想されるが、それ以上の潜在性は十分にあるとの見解を示した。
 現在の生産能力は、「自動車市場が100万台に到達しても、十分に対応できる」水準だとし、「それ以上の市場規模になった場合は、状況に応じてさらなる投資を考慮していきたい」と述べた。生産能力は、北ジャカルタ・スンタルの既存工場で33万台、建設を進めている西ジャワ州カラワン県のスルヤチプタ工業団地でさらに12万台の生産能力を加える。新工場は年内にも完成する予定で、2直体制で年間計45万台になる。
 モーターショー開幕直前に発表した5人乗り小型車「アイラ」については「インドネシアの人々の生活に必ず役に立つものになっていると思う。今後も、インドネシアにフィットした車、インドネシアのためになる車をつくっていきたい」と述べ、「ラインアップ拡充でインドネシア市場への積極的な姿勢を形にした」と強調した。
 「ダイハツは、販売、アフターセールスなどの面で、パイオニアで、リーディングカンパニー。インドネシアの自動車産業の発展に対して責任がある」と、インドネシア経済への貢献にも力を入れていく方針を示した。

◇長期的視野で投資を−アストラ社プリヨノ社長

 アストラ・インターナショナル(AI)社のプリヨノ・スギアルト社長は、昨年、ASEAN(東南アジア諸国連合)で販売台数が1位となったインドネシア市場について、「今年はタイが再びトップになるかもしれないが、インドネシアが再び巻き返すのは時間の問題」と力を込める。
 人口規模に加え、若年層の比率が高いということも一つの要因と指摘。また「インドネシアの中間層の規模はとてつもない。現在ですら4千万人いるが、マッキンゼーの予測によると、2030年には1億3500万人になるという。国民1人当たりGDP(国内総生産)も昨年に3500ドルだったのが、今年は3800ドルに増加するだろう。この状況が続けば、モータリゼーションはどんどん加速していく」と述べた。
 近年、日本からの投資が急増していることについて、「われわれは重機、自動車、アグリビジネスのバリューチェーンを有しており、そのバリューチェーンに適合するうちは、歓迎する。当然、一番大きいのは自動車関係。われわれはこれまで数多くの企業と協力関係を築いてきている」と話す。
 非日系企業の市場参入も目立つが、「非日系の製品が使えれば考慮に入れる。しかし、最優先は日本企業だ。日本のパートナーとは40年以上、協業しており、われわれはその状況を幸せに思っている」との見解を表明。日本からの投資家に対して「この国を信じる必要がある。小さな問題がいろいろとあるのは事実だが、常に解決策は見つかる。前向きに考え、長期的な視野に立った事業展開を考えてほしい」と呼び掛けた。

◇市場の成長続く−インドモービル社ユサック社長

 インドモービル・スクセス・インターナショナル社のユサック・クルトウィジョヨ社長は、インドネシアの自動車販売はこの2年、2桁成長を続けており、今年も8月までのペースが継続すれば、年間100万台の大台達成は十分可能と予測する。
 頭金規制の問題も大きな問題ではないと自信を見せる。200万台を超えるまで10年はかからないと前向きだ。
 中国で起こった反日暴動がインドネシアの自動車産業に及ぼす影響については、「特に影響はないと思っている」との見方を表明。ASEAN(東南アジア諸国連合)での輸出拠点としては、まだタイと大きな開きがあるが、「国内市場が成長すれば、自然と投資が入ってくる。投資が増えれば、生産の効率性も上がる。もっと多くの投資を望んでいる」として、今後の輸出拠点としての発展にも期待を示した。

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