北へ日本へ 79日間ジャカルタ〜東京 マジャパヒト号 アジアの大航海時代を再発見
全長20メートルの木造帆船「スピリット・オブ・マジャパヒト号」が5月11日、ジャカルタを出航し、7月28日、東京湾の千葉・船橋港に着岸した。6千キロ以上にわたる79日間の航海を振り返る。
■帆船を再現
マジャパヒト王国は13世紀末から16世紀初めにかけてジャワを中心に栄えたヒンドゥー王朝。海事調整省によると、当時、マジャパヒト王国から琉球王国へ使節団が9回派遣されている。航海に使われた帆船を描いたレリーフが、中部ジャワ州マグランの世界遺産、ボロブドゥールに残っており、これを元に当時の帆船を再現した。
航海は2010年7月に企画され、ジャカルタから出航したものの台風でマニラから引き返した。翌年に再挑戦しようとしたところ、東日本大震災が発生。再出発まで6年を要した。
インドネシアの船員9人を指導しながら同乗する海洋冒険家、山本良行さん(67)にとっては6年前のリベンジとなる航海だ。山本さんは出港前、「アジアにもかつて大航海時代があった。その後ヨーロッパ諸国に取って代わられたが、アジアの大航海時代をこの航海で再発見したい」と話した。
■順調な船出
5月11日、晴れ渡った北ジャカルタのアンチョール・マリーナふとうから出航したマジャパヒト号は帆を掲げ、北へ向かった。最初の寄港地は西カリマンタン州ポンティアナック。4日間の穏やかな海だった。その後4日かけてブルネイへ。さらに4日後の5月29日、マニラに入港した。
ブルネイからマニラまでは航海中の停泊地で最も距離があり、1314キロ。極めて順調な航海だったという。マニラでは在マニラ・インドネシア大使館による歓迎式典が行われ、在マニラ各国大使がマジャパヒト号に乗船するハプニングもあった。
■豪雨と大波
マニラから台湾・高雄へも天候に恵まれた。ところが、那覇に向けて台湾北部を航行中、荒天でエンジンが過熱、冷却装置も故障し、ようやく修理を終えると梅雨前線の影響で竜巻が起き、豪雨に襲われた。北東からの強い向かい風で、波は10メートルを超えた。何度も航路を変えながら那覇にたどり着いた。山本さんはこの航海が全行程中最も厳しかったといい、「死ぬかと思ったが、船は大波に耐え、強靭な構造であることを証明できた」と話す。
沖縄では、マジャパヒト王朝と琉球王朝の交流を再現する式典も行われ、インドネシア・マジャパヒト・コミュニティーから沖縄インドネシア友好協会にクリス(古代ジャワの短剣)、バティック、香料などが贈られた。
■無事これ名馬
那覇から鹿児島、三重・鳥羽までは順調に進んだが、鳥羽出航後、アウトリガーが故障、引き返して修理し、再出航した。最後は黒潮に乗って東京湾へ。千葉・船橋港に着いたのは7月28日の夜だった。
インドネシア人船員の1人、エム・アミンさん(70)が体調を崩し、鹿児島から空路帰国したが、残る8人は最後まで山本さんと航海を続けた。山本さんは「これまで7回航海しているが、一人も死なせてはいない」と笑った。(濱田雄二)