地域コミュニティをデザイン 建物を建てない建築家 山崎亮さんがUPHで講演
「建物を建てない建築家」として、日本各地でコミュニティデザインを手掛けてきた山崎亮さん(41)が23日、バンテン州タンゲランのプリタ・ハラパン大(UPH)で講演会とワークショップを開いた。阪神淡路大震災の被災地で倒壊した建物を目の当たりにした経験を踏まえ、人と人を結ぶ地域コミュニティーをつくる感性を持ち、問題解決に生かす大切さを伝えた。
講演は、国際交流基金が開催中の巡回展覧会「3・11東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」の関連イベント。これまで山崎さんは、兵庫県三田市の「兵庫県立有馬富士公園」や、大阪府の公園「泉佐野丘陵緑地」などで、住民が運営管理するプロジェクトをサポートしてきた。
講演で山崎さんは、1995年の阪神淡路大震災当時、大学で建築を学んでおり、調査のため被災地へ足を運んだ体験について説明した。コンクリートの建物は全壊し、その下敷きになり亡くなった人々を目の当たりにした。「建築物が人を殺しているのでは」と感じ、建築物を作り続けるか悩んだという。
東日本大震災後の復興で日本の建築家が提案したのは、小規模な建物がほとんどで、東北の都市全体を復興させるような大きな建築物をデザインした建築家はいないと強調。「日本ではこれまで大規模な建築物を建てることが多かったが、現在では人口が減少、地域での人間同士のつながりも薄れている。建築家も、都市開発を進めるのではなく地域コミュニティーをつくるデザインを模索するようになった」と説明した。
被災地の復興では、災害直後に被災者を中心に自然と連帯感が生まれ、復興が一時的に盛り上がる「災害ユートピア」が生まれるが、この後、長期的に復興を進めるのが難しい。被災地へ行けば、建築家はカフェなどを作ってほしいと頼まれるが、建物を建てるのではなく、話し合う場を設け、最終的に地域の人々が運営管理できるコミュニティーづくりのアドバイスをしてきたという。
建物を建てないが、建築家の発想で地域が抱える問題の解決に挑む。「建築家的な思考とは『美しさ』にこだわること。美しさとは、楽しい、かっこいい、おしゃれ、かわいい、おいしいなどの人が持つ感性。その感性を取り入れ、人の気持ちを動かすのがデザインの役割」と話した。
■市民協力で解決
ワークショップにはUPHの建築学科の学生ら約30人が参加。6人1グループで、ジャカルタの社会問題を2つ挙げ、建築物を建てず市民の力を合わせて解決できる方策を考えた。洪水や渋滞などの課題が挙がり、文字だけでなく図や絵を使う「ダイアグラム」で考えを整理して発表した。山崎さんはそれぞれのグループの解決策にアドバイスを出し、コミュニティーデザインの考え方を伝えた。
ワークショップに参加したディロさん(25)は「コミュニティデザインは、建物を建てるばかりの都市部にとって新しい考え方。政府の助けがなくても市民同士で協力し、より良い街づくりができると思う」と話した。
この日、ジョクジャカルタのクリステン・ドゥタ・ワチャナ大建築学科のエコ・プラウォト教授も講演した。エコ教授は阪神淡路大震災や新潟県中越地震、中部ジャワ地震の被災地で復興に携わった。竹を使った家を村全体で協力して建て、維持・管理を進めるなど、建築を通して地域コミュニティーの結びつきを強めるプロジェクトを担ってきた。インドネシアの建築家の課題として「文化や環境、社会にも考慮し、人と人を結びつける町づくりという広い視野を持たなければならない」と話した。
展覧会はUPHで26日まで。山崎さんはメダンとスラバヤでも講演する。(毛利春香、写真も)
山崎亮(やまざき・りょう)
1973年愛知県生まれ。97年、大阪府立大学農学部(緑地計画工学専攻)卒。99年に同大大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2005年にStudio−Lを立ち上げ、東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)、京都造形芸術大学教授(空間演出デザイン学科長)、慶応義塾大学特別招聘教授を務める。