映画上映会に抗議 虐殺被害者の記憶を描く 「ルック・オブ・サイレンス」

 1965年以降に起きた共産党支持者虐殺の被害者家族を追った映画「ルック・オブ・サイレンス」(原題「スニャップ」=静寂)の上映会がインドネシア各地の大学などで開かれ、イスラム団体や反共産主義団体などから上映中止を訴える声が出ている。昨年のベネチア国際映画祭で審査員大賞を受賞、日本でも今夏公開予定の話題作だが、50年前の虐殺事件をめぐる記憶は現在も国民の間に生々しく残る。

 ジョクジャカルタ特別州の国立イスラム大学(UIN)で11日、学生団体が「ルック・オブ・サイレンス」の上映会を開催した。現地報道によると、学生団体は虐殺について議論を深めようと上映会と討論会を企画。これに対し、イスラム団体は映画が共産主義を礼賛しているとして上映会の中止を要求。同大のアフマド・ミンハジ学長も映画検閲局(LSF)の上映禁止処分を理由に中止を求めた。
 しかし、学生団体は「学問の自由を守る」として上映会を強行。主催者によると学生約100人が観賞した。キャンパスを訪れて抗議するイスラム団体関係者の姿もみられたが、大きな混乱には発展しなかった。学生の一人は地元メディアに対し「他大学の学生も勇気をもってほしい」と呼びかけた。
 ジョクジャでは昨年12月、独立ジャーナリスト連盟(AJI)が同作の上映会を企画したが、「反共産主義戦線」を名乗る集団が「襲撃予告」をしているとして、地元警察の要請を受け中止を余儀なくされた。ガジャマダ大学(UGM)などキャンパスを中心に公開されたが、上映回数を減らしたり、討論会を中止したりするケースが相次いでいる。

■「過去を直視」
 インドネシアでは昨年11月、中央ジャカルタの文化施設「タマン・イスマイル・マルズキ」で、国家人権委員会やジャカルタ芸術評議会(DKJ)が主催し、上映会を初開催した。ジョシュア・オッペンハイマー監督がテレビ会議で討論会に参加。作品の趣旨について「人々がどのように虐殺にかかわったか、被害を受けたかを問うことではない。『過去は過去』と何が起きたのか直視せず、沈黙してきた人々に対し、誰もが過去から逃れることはできないということを示したかった」と説明した。
 昨年製作されたこの映画は、65年の共産党系将校によるクーデター未遂「9.30事件」以降、全国各地で吹き荒れた共産党支持者の虐殺で被害を受けた北スマトラ州の家族を描く。全国で50万人〜数百万人が犠牲になったとされるが、被害者の家族は口を閉ざしたまま。弟が兄の死の真相と加害者の居場所を突き止めようと静寂(スニャップ)を破る。
 前作「アクト・オブ・キリング」(原題「ジャガル」=殺人者)で、加害者の自警団員に虐殺を「再演」させたオッペンハイマー監督が今作では被害者に焦点を合わせている。(田村隼哉)

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