ユネスコの無形文化遺産に アチェのサマン・ダンス 「緊急保護リスト」入り
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は二十四日、バリ島で行われている第六回無形文化遺産政府間委員会で、インドネシア・アチェ州ガヨ山岳地域のガヨ族の伝統舞踊「サマン・ダンス」を無形文化遺産の「緊急に保護する必要がある無形文化遺産のリスト」に認定した。インドネシアの無形文化遺産がリスト入りするのは三年連続。長年の独立紛争で疲弊し、二〇〇四年十二月のスマトラ沖地震・津波では壊滅的な被害を受けたアチェが、復興に向けた産業の柱と位置付ける観光促進への朗報になるとともに、都市部を中心に急速に近代化が進むインドネシアで、伝統文化保護の動きに弾みが付きそうだ。
無形文化遺産は、口承による伝統表現や社会的な儀式、慣習、伝統工芸技術を対象にしている。インドネシアからはこれまでに短剣のクリス(二〇〇三年)をはじめ、影絵芝居人形ワヤン(〇五年)、ろうけつ染めのバティック(〇九年)、竹製楽器アンクルン(一〇年)が無形文化遺産の代表リストに登録されたが、緊急保護リスト入りしたのは初めて。そのほかにブラジルの精霊儀式ヤオクワなど八つが緊急保護リストに入った。
サマン・ダンスは十三世紀に、アチェ州のガヨ・ルエス地方のウラマー(イスラム指導者)、シェク・サマン師によって編み出された踊り。ガヨの刺しゅうが付いた伝統衣装を着た若い男性や少年が、膝をついて座ったまま列に並び、歌やリズムに合わせて手、指、腕、頭、上半身を上下左右に一斉に素早く力強く動かし、肩や手をたたく。踊りには宗教的なメッセージが込められているとされ、村の祝い事や村同士の交流イベントで披露されてきた。
近年では女性の踊り手も現れ、先週バリで行われた東南アジア諸国連合首脳会議(ASEANサミット)や観光イベントなどで披露されている。一斉に手が動く様子から「千の手のダンス」と呼ばれることもある。
ムハンマド・ヌー教育文化相は、ユネスコのサマン・ダンスの保護・推進のために一千万ドルの予算を組むと発表。マリ・パンゲストゥ観光相は、世界的にサマン・ダンスが知られるようになれば観光誘致などに役立つと期待を込めた。
■アチェ観光のきっかけに
アチェ州の地元大手紙、スランビ・インドネシアのザイナル・アリフィン記者は「サマンダンスが登録されることがきっかけで、世界の関心がアチェに集まり、アチェ全体の観光がもっと盛り上がっていってほしい」と願いを込める。
エジプト・カイロに留学していた一九九五年に、インドネシア大使館のイベントで、踊り手としてサマン・ダンスを外国人に披露したことがあるというアチェ出身のアブ・イザッドさん(四四)は、「披露した時の観客はみんないい表情をしていた。サマン・ダンスのようなレベルの高い踊りが、無形文化遺産に認められるのは当然。インターネットやテレビを通じてダンスを見てほしい。世界の人にアチェの文化を知ってほしい」と語った。