パサール近代化の流れ 工事進まず、商人に不安
「汚い、臭い、暑い、狭い」。4月25日に起きた州内有数の伝統市場、パサール・スネンの火災はそんな市場のイメージに加えて「危険」という問題を生じさせた。モールやコンビニが増え、市民の伝統市場離れが進むなか、建て替え計画は進まず、商人は不安を抱えている。
■ 「埃っぽくて人が来ない」
「これ見てくれよ! 商売にならない」。記者だとわかると、服飾商人のマリア・シリアさん(40)がまくしたてた。マリアさんが指差す床には木の建材から出た粉が積もっている。他の商人たちも「風通しが悪く暑い」「ねずみが商品を食べる」など、次々と不満を口にした。
中央ジャカルタ・クマヨランの伝統市場パサール・ナンカ・ブンクル。州の伝統市場近代化計画のもと、建て替えのため昨年12月に取り壊された。売り上げが伸びるならと、商人たちは新市場完成までの一時的な移動を受け入れた。現在、マリアさんらは旧市場の真横に建つ急ごしらえの仮市場で商売している。
公営市場を運営するパサール・ジャヤが約束した工期6カ月はすでに過ぎた。だが旧市場は空き地のままで、作業している様子は一切ない。
雑貨を売るアチェ・バイハキさんは「ここは埃っぽくて人が来ない。1日の売り上げは50万ルピアから20万ルピアほどに減った」と肩を落とす。
■「とにかく早く作って」
西ジャカルタのパサール・カンプンドゥリでも、市場から商人が移動したが建て替えは止まったままだ。
雑貨商人のプラティクノさん(46)によると、1カ月ほど作業が止まっているという。半年で市場を近代化し2階建てにすると聞き、昨年9月に移動したがまだ基礎工事も始まらない。空いた土地には木材や鉄筋が無造作に積まれている。州からは何の説明もない。
仮市場には蜘蛛の巣が目立つなど、とても清潔な環境とは言えない。商人たちは「とにかく早く作ってほしい」と口を揃えた。
■「賃料倍?とんでもない!」
市場の商人をまとめる伝統商人協会のアブドラ・マンスリ会長によると、売上減少のため2007年〜13年までに全国で3千の伝統市場が閉鎖した。この流れに商人の多くは危機感を募らせており、市場を便利で清潔な場所にし客を呼び込むことには賛成している。ただし、ほとんどが零細な個人経営なため体力がない。そのため急激な商売形態の変化に不安を感じている。
パサール・スネンのブロック3で電気屋3店舗を営んでいたジョーダン・ハシウワンさん(60)は、「建物が新しくなっても、どれだけ客が増えるかは分からない。賃料を倍にするという話もあるが、とんでもない」と憤慨する。
新築すれば賃料は上がる。スネンでもできるだけ経費を抑えたい商人側と貸主であるパサールジャヤとの間で、賃料はまだ折り合っていない。
工事はいつ始まっていつ終わるのか、その間の売り上げ補償はあるのか、新賃料はいくらか‥。服飾の3店舗が全焼したシトルスさん(66)は「州は早急な近代化を進めるだけでなく、商人らに細かく情報を提供していく必要がある」と指摘した。
■3割が改修必要
パサールジャヤのジャンガ・ルビス社長は地元メディアに、同社が運営する州内153の伝統市場のうち、3割が改修や建て替えが必要になっていると明かした。そのほとんどが築20年以上で火災が起きやすい状態だという。
州は今年、1兆ルピアを補助して16の市場を改修する計画だ。空調やエレベーターの設置で遠のいた客足を戻したい考えだ。
日刊紙コンパスのまとめによると、パサール・スネンだけで02年から4回火災が起きており、うち3回が漏電によるものとされる。(堀之内健史、写真も)