導入10年 課題が山積 渋滞抑制に貢献も 火災・スリ・ボロ車両‥ 専用路線バス・トランスジャカルタ
首都圏専用路線バスの州営トランスジャカルタが2004年1月に開通してから10年が経った。首都圏各地を結ぶ12路線を運行し、1日37’万人以上が利用する市民の足として定着、渋滞対策にも一定の効果を上げているが、運営面の課題は多い。
■進入車と衝突
トランスジャカルタ専用車線へ進入する車やオートバイが絡んだ人身事故が増えている。州トランスジャカルタ管理局によると、12年に373件だった専用車線での交通事故は、13年に574件に急増した。
一般車両が流れ込み、トランスジャカルタが渋滞に巻き込まれることも多く、州政府は昨年11月、バスレーン進入規制を強化した。年々渋滞が悪化しており、混雑を避けようと進入する車両との接触事故は増え続けている。
車内での犯罪も頻発する。記者が初めてトランスジャカルタに乗った約2年前、インドネシア人の友人が目の前で窃盗被害に遭った。上着の外ポケットに入れた財布を、同じ扉から降りる男に取られたのだ。すぐ停留所で職員に知らせたが、職員は諦めたような表情で被害状況を聞き取るだけだった。
慢性的な車両不足にも悩まされている。本来5年で廃車にすべき車両を続けて走らせている状態だ。
第4路線を利用した時のことだ。中央ジャカルタのハリムン停留所からドゥクアタス停留所に向かう途中、エンジンが故障した。満員の乗客の誰も驚いた様子はなく、数分間立ち往生した後、横に停車した後続のバスに1人ずつ飛び移った。古びて色がくすみ、車体もでこぼこなバスがいつ壊れてもおかしくないと感じていたのだろう。
整備不良が原因の車両火災も06年以降少なくとも12件起きている。南ジャカルタ・ハリムン停留所など一部の停留所には歩道橋がなく、利用者は道路を横断しなければならず、危険だ。
渋滞を避けるため利用する人も多い一方で、不便な点も多い。道路脇のどこからでも直接乗り降りできる公共バス・コパジャなどに比べ、トランスジャカルタは道路の中央に設置された停留所に行き着くまでが一苦労だ。ほとんどの停留所で、上り下り計100メートルにもなる歩道橋を歩かなければならない。
■長い待ち時間
待ち時間も長い。管理局によると、現時点で運行に使われるバスは699台で、今後310台を段階的に追加する予定だが、必要台数の1289台にはまだ足りない。多くの路線で、30分以上の待ち時間が常態化。やっと来たと思ってもバスには人がすでにぎゅうぎゅう詰めで乗れないこともしばしばだ。
■サービス向上
利便性を上げるため、さまざまなサービスを導入してきたが、定着していないものも多い。
昨年1月に開始したICカードの普及率は20%に留まっている。提携銀行が5行しかなく、停留所でチャージ(入金)できないことが不便とされているためだ。運営会社はICカード利用者の運賃半額キャンペーンなどを展開し、利用促進を図っている。
12年には主要路線に無料の無線インターネット(Wi―Fi)を設置したが、トランスジャカルタ利用者のコミュニティー「トランスジャカルタの声」には「利用できない」との苦情が多く寄せられている。
一方で、頻発する痴漢など犯罪を受けて、11年に導入した女性専用車はすっかり定着したようだ。2両連結車両では前方を女性専用にして、男性の立ち入りを禁止。間違えて乗車した男性客も後方に移るようになった。
問題は山積みだが、トランスジャカルタは地下鉄もモノレールもない巨大都市の渋滞抑制の要であることは事実。州は今年中に新たに3路線を追加して15路線にするほか、停留所と鉄道駅との連結を進める。また3月ごろからは24時間運行を始めるなどして利用客を増やしたい考えだ。(宮平麻里子、堀之内健史)