【じゃらんじゃらん特集】歴史漂う 布教の国際拠点 華人ムスリムが建立 西ジャカルタ・クボンジュルック・モスク
歓楽街として知られる西ジャカルタ・マンガブサールから約500メートル。24時間営業のファストフード店やコンビニなどが並ぶハヤム・ウルック通り沿いに、ひっそりと緑色の屋根のモスクが立つ。18世紀、華人のイスラム指導者が建立して以来、バタビア(ジャカルタ)中心部の華人をはじめ、国内外の説教師が集う布教の拠点になった。ラマダン(断食月)中は、聖典コーランを朗誦する声が途切れなく響いている。
このモスクに集う男性は、上下がつながったイスラム服を身に付け、頭にはターバンを巻いている人が目立つ。長いあごひげをたくわえたムスリムも多く、インドネシアというより、パキスタンなどの地域の雰囲気が漂う。
「インド北部やパキスタン、バングラデシュをはじめ、エジプト、オーストラリア、日本などからやって来るムスリムもたくさんいる。ここを拠点にインドネシア各地へと送られ、布教活動に励む伝道師たちです」
モスク管理人のアフマッド・スバギヨさん(62)は、ここは「ジャマア・タブリグ(布教共同体)」の拠点だと話す。日本も含む国際的な活動を展開するイスラム復興団体だ。モスク内では、定刻の礼拝を終えた後も、いくつかのグループに分かれ、説教師を囲んで講話に聞き入る。祈るためだけの施設ではなく、布教方法を実践的に学ぶ場でもあるようだ。
モスク裏の建物上階にはマットレスなどが敷かれ、地方からやって来たというムスリムが寝泊まりしている。南スラウェシ州マカッサル出身のアブドゥラさん(22)によると、月ごとに炊事、洗濯、掃除などを担当するグループに分かれているという。「今月はスラウェシ出身者。来月以降はランプン、カリマンタンなどと出身地域ごとの当番制になっています」
オランダ植民地時代の1786年に建てられた由緒あるモスク。建造したのは中国出身のタミン・ドソル・セン氏。華人のムスリムは当時、仏教徒などと区分けされ、プリブミ(土着のインドネシア人)のムスリムと手を結び、一大勢力となることを恐れたオランダが厳重に監視していたという。
このモスク周辺には華人ムスリムの集落が広がっていた。現在、ここから東へ約1キロのパサール・バルにも華人ムスリムのモスクがあり、当時のムスリム居住区の名残をとどめている。(配島)