【顔】下町で野菜を売り歩く トパン・ソプヤンさん(47)
細い路地を歩くと、主婦が呼び止める。両手で押す台車には約10キロの野菜を積む。午前8時〜午後9時、中央ジャカルタの下町クボンカチャンで野菜を売り歩く。「自由に生きてきた」。ジャワなまりのインドネシア語で天を仰いだ。
80年代からジャカルタに暮らす。家庭が貧しく、高校を中退した。ジャカルタには仕事が溢れていた。高級ショッピングモールは当時なかったが、繊維市場タナアバンはにぎわう。人ごみをかき分け、たばこや飲み物を売り歩いた。
2004年には飲み物を売っていた移動式屋台が路上整理を進める州の摘発にあい、クボンカチャンに落ち着いた。車の修理工になったこともあるが、長続きしなかった。上司や他人にあれやこれや言われるより、1人で気ままに働くのが性に合う。
午前6時に仕入れた野菜は新鮮でスーパーマーケットより値段が安い。客はすべて馴染みの主婦。皆家族のために、毎日の献立を考えている。会話を交わすと、ふと故郷の家族を思い出してしまう。レバラン(断食明け大祭)は家族が待つ中部ジャワ州プカロンガン県で過ごす。子ども4人と過ごす時間は至福の時だ。子どもが皆自立すれば、将来はプカロンガンに帰るつもりだ。(上松亮介、写真も)