【顔】 熱帯びる企業進出を支える通訳・翻訳者 ヌル・アストゥティ・ワヒディンさん(40)
男性が耳元で話すと、スハルト大統領(当時)がうなずく。大舞台の裏にいる影の立役者に見えた。外交会談でテレビに映る大統領の隣にいつもいる通訳者ウィドド・スティヨさんに憧れた。
故郷の北マルク州テルナテ島にはスラウェシやパプアからの人、華人、多くの人種が暮らす。貿易が盛んだったテルナテには混血の人が多く、自分にもアラビア系の祖先がいる。幼いころから、人それぞれの違いを意識してきた。
「橋のように、立場や考えが異なる人同士をつなげたい」。ジョクジャカルタのガジャマダ大(UGM)文学部日本語学科を卒業し、1998年から多くの日系企業を相手にしてきた。現地企業との合弁契約の会議や、日本人技師によるインドネシア人従業員への社内指導。専門用語の習得はもちろん、双方の言い分をかみ砕き伝えることが求められる。
スマトラ沖地震・津波が起きた2004年、緊急援助でジャカルタの大使館に駐在する自衛隊員のため、震災に関する地元報道を翻訳した。最前線で援助について話し合う隊員への一助になることができ、やりがいをかみ締めた。
企業進出が著しいインドネシア。日本をはじめとする外国から多くの人がやってくる。どんどん広がる活躍の場で、これからも人と人をつなげていく。(上松亮介、写真も)