「今日も音楽楽しむだけ」 消えゆく混沌列車で15年 幼なじみの6人組バンド

 混雑時には屋根にまで人が乗り、ドアは常に開いたままのエコノミー列車で15年、毎日演奏を続けてきたバンドがある。幼なじみの6人組「クンチャナ・アコースティック」だ。国鉄のサービス強化方針で、現在では日本の中古車両を中心としたエアコン付き列車が運行の中心。郊外から都会へ移動する小規模商人や庶民の移動手段となっている運賃1500ルピアのエコノミー車はすでに1日に数本となり、長期的には運賃8千ルピアのエアコン車にすべて置き換わる予定だ。「クンチャナ」の活躍の場は減り続けるが、「ただ楽しんで音楽を続けるだけさ」と巨体を揺らしながらアコーディオンを奏でるスプリ・ヌグロホ・ウィディアントさん(30)。何でもありの混沌とした車内で、彼らは今日も軽快な音楽を響かせている。
 エコノミー車には、エアコン車では乗り込みが禁じられている行商人が幅を利かす。売り物は多種多様で、タフ(豆腐)など軽食や飲み物、ティッシュなど確かに車内で買えれば便利な物もあるが、化粧品や子どもの学習書など電車でわざわざ買う必要のなさそうな物まである。
 お金を求めるために乗り込んでいるプガメン(ギター弾き)や障害者、幼児なども多く、乗客は信仰心や同情心、ときには怖さから求めに応じる。「クンチャナ」もお金を求めるのだが、乗客は皆、笑顔でお金を差し出す。受け取る彼らも同様に笑顔だ。
 バンテン州南タンゲラン市のスディマラ駅から中央ジャカルタのパルメラ駅まで約20分。ギター3人とドラムに、アコーディオンと身長を超える高さのコントラバスの6人が吊革につかまる客の隙間を会場に変え、最新のインドネシアのポップ曲からビートルズなど定番の洋楽まで多様な音楽を軽快に演奏する。
 27歳から37歳までの若者バンドだが、列車での演奏暦はすでに15年。皆、スディマラ駅周辺に住み、ギター弾きのおじさんに囲まれて住むうちに、自然と演奏技術を身に付けた。1日に集まるお金は30〜40万ルピアで、1カ月の1人当たりの収入は200万ルピアに満たないが、「貯蓄もあるし、生活に困ることはない」とスプリさんは話す。
 昔は1日に何本も列車に乗って演奏をしていたが、今は1日に2往復だけ。エコノミー車は運行本数を減らし続けているのに加え、練習場でありたまり場でもあるスディマラ駅のキオス(商店)も国鉄の近代化策で近く撤去される。スプリさんは「それは寂しいけど、一般人の俺らが何をできるわけでもない。場所がある限り演奏を続けるよ」と話す。
 スプリさん愛用のアコーディオンは使用歴10年を越えてぼろぼろだが、今も優雅な音を奏でる。毎日の演奏で腕前はプロ並み。「資金を貯めてCDを売る」のが彼らの目標だ。(関口潤、写真も)

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