アジアユースオーケストラ 16年ぶり選考会、若者門戸叩く 邦人音楽家が橋渡し

 クラシック音楽を学ぶ若者がオーケストラを編成し、日本や中国などを巡る「アジアユースオーケストラ」の選考会が24日、インドネシアでは16年ぶりに開かれた。実行委員として開催に導いたのは、バイオリン奏者でインドネシアのクラシック音楽普及に力を注いだ松野木京子さん。「狭い社会ではなく、世界を見てほしい」との思いが若者に挑戦への門戸を開いた。
 「ユース」は、アジア各国の17〜27歳の奏者100人を選出し、3週間のリハーサルキャンプ(香港)、3週間の演奏ツアーを毎年別メンバーで繰り返す。交流を目的としながらも国ごとの参加人数は決めておらず、対象国全体でみた場合の実力順で選ぶのが特徴だ。
 松野木さんは夫の赴任に会わせて来イした1993年以来、延べ9年間半の滞在中、国内外の音楽家を招致するなどクラシックの普及活動に力を注いでいた。06年に帰国した後もジョクジャカルタ芸術学院(ISI)の助言役を務めていた松野木さんがユースに出会ったのは、同年の東京公演に招待されたことがきっかけ。
 インドネシア人の参加者はなかったが、他国との交流のあるプログラムに共感した。学習環境もレベルも違う同世代が切磋琢磨する経験は貴重と感じた。
 しかしユースへの興味の深まりと同時に、問題意識も生まれた。翌年もその次の年も演奏会に足を運んだが、演奏者名簿にはインドネシア人の名前がなかったのだ。
 記録を見ればインドネシアでの選考会は96年、97年に開かれただけだった。近隣諸国での選考会参加は制度上は可能だが、外国で審査を受ける心理的負担や渡航経費が足かせになっていることは容易に想像できた。実際、この10年、インドネシア人の合格者はない。
 長年インドネシアで高等教育に関わった経験から、能力の高い人材も生まれつつあるとの思いがある。「挑戦者が出てくればクラシック界のボトムアップになる」との確信に突き動かされ、事務局に打診したものの、取り合ってもらえなかった。
 それでも諦めず2年間要望を続けた。熱意が伝わったのか昨年10月、事務局は松野木さんが責任を持って選考会を運営することで開催を認めた。旧知のインドネシア音楽業界関係者に声掛けしたところ、協力を表明してくれた。
 選考会当日。西ジャカルタの音楽学校には、当初の不安とは裏腹に、約40人の受験者が集まった。
 楽団指揮者のリチャード・パンチャス音楽監督らを前に、実力を試す若者の中にはISIで学ぶチェロ奏者アルフィアン・アディティアさん(21)の姿もあった。3年前にマレーシアで受験したが落選した1人だ。「当時、インドネシア人参加者は3人だけだった。今回の地元開催は多くのインドネシア人に機会を与えてくれた」と話していた。
 結果が分かるのは全ての選考会が終わる3月以降だが、松野木さんは「目的がないために頑張れないのは残念。『頑張ればチャンスはある』ということを伝えたかった」と、インドネシアの音楽界が次のステップを踏み出すきっかけになることを願っている。(道下健弘、写真も)

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