【選挙戦を追う―6党激突 2012年首都知事選?】 「ばらまき」で切り込む ヘンダルジ候補
「オラン・ブサール(お偉いさん)がやって来た」―。大型バスで乗り付けたヘンダルジ候補(60)が、南ジャカルタ区マンガライ郡トゥガル・パラン・マンパン・プラパタンのカンプン(下町)を歩く。路地に詰め掛けた有権者たちが一斉に手を振り、子どもたちがはしゃぐ。同候補が住民の手を取りあいさつした。
「Jakarta Jangan Lagi『BERKUMIS』(汚く貧しいジャカルタはもう十分)」。だいだい色の支援者Tシャツを着た有権者に囲まれた同候補は「Kumuh」(汚い)と「Miskin」(貧しい)を合わせた造語を、ファウジ・ボウォ候補(現知事)の口ひげ(Kumis)に掛け、ジャカルタの現状批判を展開する。
経済成長、保健所(プスケスマス)や授業料(高校まで)の無料化。掲げる政策構想は、ジョコ・ウィドド候補(ソロ市長)やアレックス・ヌルディン候補(南スマトラ州知事)がそれぞれの自治体ですでに実現している。「泡末候補」と目される同候補にとって、独自色があるとは言えない。
集票を狙う貧困層が多いカンプンで、ヘンダルジ候補は無料健診を実施した。医師2人が常駐し、続々と押し掛ける有権者を検診。診断を受けた有権者は薬をもらい大喜びだ。主婦のザキアさん(50)は手の痛みを訴え、塗り薬をもらった。「小さい子どもがいるし、教育と医療がただになるならそりゃうれしい。現職がどんな人かも知らないし、投票するならヘンダルジさん」と話した。
ヘンダルジ候補はキャンペーン期間中、1日5カ所を巡回。各区に平均50人以上の選挙対策員を配置した。無料健診と合わせてくじ引きも実施。有権者が紙にくじ番号を書いて箱に入れると、同候補の選挙対策員が有権者Tシャツを引き換えに渡して、結果発表を待つように促す。目の前には、炊飯器や浄水器などの豪華商品。「私が知事に当選すれば、首都圏で2年以内に100万人分の雇用創出を約束する」。有権者は目を輝かせて同候補の話に耳を傾けた。
無料健診とくじ引きについて、「選挙の風紀を乱す」として総選挙委員会(KPU)やマスコミからは批判が続出。これに対し、ヘンダルジ候補は過去の選挙キャンペーンに触れ、スンバコ(コメなどの生活必需品)や金品を直接配布するケースがあったとし、「政党の支援を受けない独立候補が、有権者に近づくために行っているだけ。政策構想でも掲げているように、市民の健康を考えてやっている。何が悪いのだ」と話した。選挙資金に頼ったばらまきキャンペーンで、どこまで食い込めるのか。(上松亮介、写真も、おわり)
◇ヘンダルジ・スパンジ(州知事候補)
1952年2月10日、中部ジャワ州スマラン県生まれ。ムスリム。74年、国軍士官学校を卒業。プラボウォ・スビアント元陸軍戦略予備軍司令官(グリンドラ党最高顧問会議議長)とは同期。国軍警察で麻薬摘発などの功績を残した。在官中の最高位は少将。国家体育委員会(KONI)副会長(2007年―11年)や、東南アジア空手協会会長(11年―現在)などを歴任。
◇アフマド・リザ・パトリア(副知事候補)
1969年12月17日、南カリマンタン州バンジャルマシン市生まれ。ムスリム。74年、ジャカルタ国立科学技術大(ISTN)土木工学部を卒業。2008年、バンドン工科大学(ITB)でMBA(経営学修士)取得。